To a loved one 〜愛しき者へ〜

桶狭間の合戦

織田佑美が、斎藤綾乃を討つ決心を固めた頃、また一つ大きな動きがあった...。

太陽3年5月...。

━━ついに、今川美波が動き出した。
二万五千人もの大軍で駿河を出発して、京都へと向かい始めたのだ...。
美濃の斎藤との同盟が破棄となった今、佑美の状況は、また悪くなってしまっていた。

━━清州女子高天守。
「━━佑美様。」
羽柴麻衣が、歩み寄って来た。

「━━ん?」
佑美が麻衣を見た。

「尾張地区の丸根(まるね)女学園と、鷲津(わしづ)女子高が、今川の手に落ちたとの連絡が入りました。」
麻衣が言った。

「━━そう、分かった...。」
佑美は、呟くように言った。

《ぷるるるる》
麻衣の携帯がなった。

「失礼致します。」
と佑美に断ってから、麻衣が電話に出る。

「...お疲れ様です...はい...かしこまりました...ご報告、有難うございます...失礼致します。」
と言って、麻衣は電話を切った。

「━━何か動きでもあったの?」
と、佑美が訊いた。

「はい、今川の軍勢が桶狭間(おけはざま)の広場で、バーベキューをしてるとの連絡が入りました。」
麻衣が答えた。

━━桶狭間とは、愛知県名古屋市緑区と愛知県豊明市に股がる地域で、佑美達の言い方で言えば、もろに尾張地区である。
尾張地区は、まだ完全に今川の手に落ちた訳ではない、それなのに呑気にバーベキューとは、相当の余裕があるのだろうか?

「......。」
佑美は、しばらく黙っていたが、
「━━麻衣。」
と、麻衣を見た。

「はい。」
麻衣も佑美を見る。

「今から戦の準備をすると、どれくらいの生徒を集められる?」
と、佑美は訊いた。

「今からですと...三千人くらいなら集められますが...。」
と、麻衣が答えた。

「分かった、すぐに戦の準備をして欲しい。」
と、佑美は言った。

「かしこまりました。」
そう言って、麻衣は天守を出ていった。

しばらくして、麻衣が手に何かを持って戻って来た。
「戦の準備は、まもなく整います。
佑美様、先ずはこれを...。」
と言って、手に持っていた物を佑美に差し出した。
━━コンビニやスーパーなどで売っている、カップタイプの鮭茶漬けだ。

「有難う。」
と、佑美は受け取った。
━━佑美は戦の前には必ず、このカップの鮭茶漬けを食べる。

「━━天気が悪くなって来ましたね...。」
と、窓を見ていた麻衣が言う。

「━━この戦、勝つよ...。」
佑美は、呟くように言った。


━━尾張地区桶狭間。
「雲行きが怪しくなって来ましたね...。」
と、家臣が今川美波に言った。

「そろそろ片付けましょう。」
と、美波は答えた。

━━今川美波達は、バーベキューをしていた。
しかし急に天候が悪くなり、雨が振りそうだった。
二万五千人もの女生徒達が、バーベキューをしていたのだ。
片付けるのにも時間がかかる...。

《ポツッ...ポツッ...ポツッ...》
雨がポツポツ降り出してきた。
━━すぐに、
《ザーッ》
と、大雨に変わった。
「うわ、やだぁ...。」
「ちょっとぉ...。」
など、あちこちで女生徒達が騒ぎ出した。

━━風も強くなり、暴風雨になった。
暴風雨のせいで視界も悪くなり、周りが見えにくくなっていた。

━━“その音”は、暴風雨の音にかき消されていた...。

━━突然!!
美波達の前に、黒い集団が突撃して来た!!

織田佑美の軍勢である。

そう...“その音”とは、佑美達の車やバイクの音である。

「尾張地区、清州女子高三年、織田佑美である!!」
と佑美は言った。

「!?」
今川軍の女生徒達は慌てふためいた。

━━完全に油断していた。
織田佑美の軍勢、三千人。
今川美波の軍勢、二万五千人。
十倍近くある兵力差も、地形を知り尽くしていて、更に奇襲にも成功した佑美達にとっては、大きな問題ではなかった。

「織田佑美家臣、清州女子高二年、羽柴麻衣である!!」
雨の中を麻衣のNinjaが、縦横無尽に駆け回る。

暴風雨で視界が悪くなり、更に油断しきっていた時の奇襲。
今川美波の軍勢は、あっという間に壊滅状態である。

━━美波は、佑美の家臣に討ち取られてしまった。

佑美達の勝利である。

ここに、彼女達の桶狭間の合戦は終了した。

今川美波、高校三年生。
天下に号令をかける夢は、ここで散った...。

《尾張の織田佑美が、今川美波を討った!!》

この出来事は、あっという間に全国の女子高生の間に広まった...。
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