眼鏡を外した、その先で。
泣きたくないのに涙はぽろぽろ零れていく。

……あーあ。最悪。

 
怒られることがわかっていながら、高原の部屋に忍び込んだ。
ベッドに寝転ぶと、流れる涙はシーツに吸い込まれていく。

私が夜、部屋を訪れるたび、高原はキスして抱いてくれた。

いつもは冷静で感情を見せない高原だけど、眼鏡を外したそのときだけは、やけどしそうなくらい熱い瞳で私を見つめていて。

私は高原に愛されているのだと……勘違い、していた。

高原にしてみればただ、雇い主の娘の求めることなので、仕方なく抱いていたのかもしれない。

いや、最悪、ただ自分の欲望のはけ口にしていたということだって考えられる。

よくよく思い出せば私はそのたびに好きだ、愛してると繰り返しているが、高原の口からは一度たりとも聞いたことがないのだ。

泣き疲れてぼんやりとしたあたまで机の上を見ると、小さな箱が載っていた。

グレーの、……リングケース。
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