眼鏡を外した、その先で。
「さっきお父様の部屋で話してるの、聞いたの。
高原が結婚する、って。
それで悲しくて……」

「立ち聞きなどとはしたないことを。
嘘をつくのもダメだと、いつも申し上げているでしょう?」

「……ごめんなさい」

「……この指環は抜けなくてもかまわないのです」

ふっ、珍しく高原が薄く笑った。
立ち上がると眼鏡を外し、胸ポケットになおす。

「え?」

「これはあなたのものなのですから」

掴んだままだった左手に口づけするとにやりと笑う。
そんな高原は初めてで、心臓がばくばくと激しく鼓動する。

「あなたのためにご用意したのですよ。
……意味、おわかりになりますよね?」

いつもと違う高原に、ただ黙ってこくこくと頷いた。

「それで?お返事は?」

「……高原は、私のことなんか、愛してないのかと」
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