味も素っ気もない手紙
~藍子と病室にて~
「お母さん、雅紀から手紙来てたよ。」



花を生け終えた藍子が椅子に座ると、バッグから一枚の葉書を取り出した。



「忙しいから会いに来れないなんてさ、言い訳にもなってないっての。
まったくなんて親不孝な息子なんだろうね。」



怒りながら渡されたそれは、写真が印刷されてあるでもなく、絵が描かれているでもない、文字が書かれているだけのただただ味も素っ気もない葉書だった。






あぁ…この葉書…






「あの子らしいじゃない。」



その葉書には、元気でやっていること、仕事が忙しいこと、そして最後に会いにいけなくて申し訳ないことが優しい字で書かれていた。



「簡単に会いに来れる場所にいないんだからしょうがないわよ。」



「確かに、来るとなったら飛行機とバスを乗り継いで来なくちゃいけないけど…
それにしたってお正月くらい帰って来てもいいじゃない。」



「そのうち会いに来るわよ。
それより、次来るとき厚手のパジャマ持ってきて。
最近寒くてしょうがないのよ。」



「分かった。明日持ってくるね。」



藍子は徐にサイドテーブルに置いてある目覚まし時計に視線を止めると、椅子から腰を上げた。



「もうこんな時間!そろそろ面会時間終わっちゃうから今日は帰るね。
じゃあまた。」



「気をつけて帰りなさいよー」



「はーい。」



病室から藍子が出て行くと、一人だけの個室がとても広く感じて寂しさが沸いてくる。



「何度入退院を繰り返しても、これには慣れないわね…」



そんな気持ちを紛らわすように、また手紙を読み返した。



そうしているうちに窓に映る夜の色が深くなっていく。

寂しさもまた深くなっていく…



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