味も素っ気もない手紙
~雅紀と病室にて~
その日、目を覚ますといつの間にか雅紀がベットの横に立っていた。
先程まで全身を覆っていた痛みが消え、不思議と身体も気持ちも軽い。
あんなに苦労して体を動かしていたのに、直ぐに上体を起こせる程に…
「雅紀…やっと来てくれたのね…」
「母さん、迎えにきたよ。」
最後に会ったのはいつだったかしら…
随分時間が経ったように思うわ…
「"かあさんにはいうな"
そう、南さんのところにメールが送られて来たって…」
その日、目を覚ますとベッド脇の椅子に見慣れた藍子のバッグが置いてあったが、藍子自身の姿は見えなかった。
以前にも私を起こさないように談話室に行っていたことがあったから、きっとそこだろうと病室を出ようとした時のこと。
少し開いた扉の向こうから、藍子の淡々とした声が聞こえてきた。
「"かあさんには言うな"っていうのは…
心配するから事故にあったことを言うなっていう意味だったのか…
命の危機を感じて…死んだらそのことを言うなっていう意味だったのか…
それはもう分からないけど…
南さんと電話で話して…
お母さんには雅紀が死んだことは黙ってようと思うの。
雅紀が残した最後の思い、大事にしたいから…
お父さんも協力して。」
「そうだな。やっとガンも小さくなって体調も良くなってきたところだ。
雅紀が死んだと聞かされたら…」
雅紀が死んだ…
一瞬にして頭が真っ白になった。
何かの聞き間違いよね?
あの雅紀が…
ふらふらする体を支えるきれず、その場にしゃがみ込んだ。
これは夢の続きを見ているのだろうか?
それならなんて酷い夢なんだろう…
けれど、そんな事を思ったって、これは夢ではないのよ…
ショックを受けていても、雅紀の死が現実味を帯びないでいたことで、不思議と思考はまだ冷静でいられた。
そんな私の耳に藍子の声が入ってくる。
「雅紀は、自分が死んだショックで、お母さんの寿命が縮まるのが嫌だったのね…」
「あの子らしいじゃないか…」
「そうね…」
あぁ…あの子らしい…
死の間際まで誰かのことを思って…
あぁ…そうね…
そうよね…
生きなくては…
雅紀の優しさに答えたい…
雅紀の想いをくんだ皆のために答えたい…
一日でも長く生きなくては…
「雅紀…」
皆、2年も隠してくれたのよ。
私が長生きしたばかりにね。ふふふっ…
私もよく生きたでしょ?
この2年、雅紀が死んだことを隠すために南さんは手紙を送ってくれたわ。
どれも、あなたらしい手紙でね…
字まで似せて…
あなたのことを良く分かってくれる人に出会えて、本当、あなたは幸せ者ね…
私も幸せ者だったわ…
2年間も私に嘘をついてくれた。
皆に感謝してるわ…
「本当に私は幸せ者だった…」
病を患って、ありったけの不幸を背負い込んだ様に思っていた私に、それを気づかせてくれたのはあなた…
青白く光る雅紀の手を取り、溢れる想いを口にした。
「雅紀…ありがとう…」
雅紀はただにこりと笑って手を握り返してくれた。
そして私は雅紀に手を引かれ、病室を後にした。
先程まで全身を覆っていた痛みが消え、不思議と身体も気持ちも軽い。
あんなに苦労して体を動かしていたのに、直ぐに上体を起こせる程に…
「雅紀…やっと来てくれたのね…」
「母さん、迎えにきたよ。」
最後に会ったのはいつだったかしら…
随分時間が経ったように思うわ…
「"かあさんにはいうな"
そう、南さんのところにメールが送られて来たって…」
その日、目を覚ますとベッド脇の椅子に見慣れた藍子のバッグが置いてあったが、藍子自身の姿は見えなかった。
以前にも私を起こさないように談話室に行っていたことがあったから、きっとそこだろうと病室を出ようとした時のこと。
少し開いた扉の向こうから、藍子の淡々とした声が聞こえてきた。
「"かあさんには言うな"っていうのは…
心配するから事故にあったことを言うなっていう意味だったのか…
命の危機を感じて…死んだらそのことを言うなっていう意味だったのか…
それはもう分からないけど…
南さんと電話で話して…
お母さんには雅紀が死んだことは黙ってようと思うの。
雅紀が残した最後の思い、大事にしたいから…
お父さんも協力して。」
「そうだな。やっとガンも小さくなって体調も良くなってきたところだ。
雅紀が死んだと聞かされたら…」
雅紀が死んだ…
一瞬にして頭が真っ白になった。
何かの聞き間違いよね?
あの雅紀が…
ふらふらする体を支えるきれず、その場にしゃがみ込んだ。
これは夢の続きを見ているのだろうか?
それならなんて酷い夢なんだろう…
けれど、そんな事を思ったって、これは夢ではないのよ…
ショックを受けていても、雅紀の死が現実味を帯びないでいたことで、不思議と思考はまだ冷静でいられた。
そんな私の耳に藍子の声が入ってくる。
「雅紀は、自分が死んだショックで、お母さんの寿命が縮まるのが嫌だったのね…」
「あの子らしいじゃないか…」
「そうね…」
あぁ…あの子らしい…
死の間際まで誰かのことを思って…
あぁ…そうね…
そうよね…
生きなくては…
雅紀の優しさに答えたい…
雅紀の想いをくんだ皆のために答えたい…
一日でも長く生きなくては…
「雅紀…」
皆、2年も隠してくれたのよ。
私が長生きしたばかりにね。ふふふっ…
私もよく生きたでしょ?
この2年、雅紀が死んだことを隠すために南さんは手紙を送ってくれたわ。
どれも、あなたらしい手紙でね…
字まで似せて…
あなたのことを良く分かってくれる人に出会えて、本当、あなたは幸せ者ね…
私も幸せ者だったわ…
2年間も私に嘘をついてくれた。
皆に感謝してるわ…
「本当に私は幸せ者だった…」
病を患って、ありったけの不幸を背負い込んだ様に思っていた私に、それを気づかせてくれたのはあなた…
青白く光る雅紀の手を取り、溢れる想いを口にした。
「雅紀…ありがとう…」
雅紀はただにこりと笑って手を握り返してくれた。
そして私は雅紀に手を引かれ、病室を後にした。