守りたい、不器用な人。~貴方と始める最後の恋~
こういう事は珍しくはない。
女だからと、変な目で見られたり、私が握るお寿司を口にしなかったり。

悔しくない訳ではない。

だけど、もう慣れてしまった。

誰に何を言われようがこの仕事を辞めるつもりはない。

だって私はこの仕事に誇りを持っているし、何より楽しい。


「あーあ……手なんか切って……これだから女は!」


大きな声が響き渡った。

大将やチーフは眉間に皺を寄せ、口を開きかける。

だがその前に違う人の声が聞こえた。


「ん~このサーモン凄く美味しいな~」


場違いともいえる能天気な声を出すのは山瀬さんだ。

幸せそうにお寿司を頬張る山瀬さんに誰もが言葉を失った。

周りからは呆れた視線が飛び交っているが、山瀬さんは全く気にしていないみたいだ。


「こんなに美味しいお寿司を握れるなんて天才ですね!」


何故か私の方を見ている山瀬さん。
それにつられる様に周りの視線もこっちへと向かってくる。
< 13 / 297 >

この作品をシェア

pagetop