守りたい、不器用な人。~貴方と始める最後の恋~
『俺と付き合って下さい』

『お前の笑顔が何よりも大切だから』

『花蓮、愛してる』


思い出したくもない声が頭の中で溢れ出す。

声も顔も、私に触れる手の感触も。
全てが鮮明に思い出される。


「……っ……」


ツンと鼻の奥が痛くなる。

胸が苦しい。
頭が痛い。


「海咲……」

「……大将、お先失礼します。食器自分で洗ってくださいね」


無理やり作った笑顔を残し立ち上がった。


「お、おう」


逃げる様にキッチンへと向かい食器を片づける。


「……いつになったら……忘れられるの……」


水音に掻き消された声。
水と一緒にこの想いも消えてしまえばいいのに……。

排水溝を眺めながら自嘲気味に笑みを零した。
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