ブラック・ストロベリー
「なんで、一緒にいたんだろう」
アイツがわたしを呼ぶ声。
『深咲』って、高くも低くもない声が、私の耳元で掠める。
名前を呼ばれるだけで、この人のすべてがいとおしいと思った。
その声に触れることは、もうできない。
私だけじゃない、ファンみんなに語り掛けるようにしか、その声は聞こえない。
わたしのことまっすぐ見つめる瞳。
言葉にしてくれないくせに、その瞳から痛いほど気持ちが伝わって、それだけで幸せだと思ってた。
でもそれだけじゃ、いつからか不安になってしまった。
その瞳にわたしはもう映ることができない。
「バカじゃねえの、姉ちゃん」
「…バカかもね」
「好きだったからじゃねえの、それだけじゃダメなのかよ」
深咲って、呼ぶ声。
ふわり、私を抱きしめた腕。
幸せそうに、隣で眠る横顔。
「好きだったよ、7年、隣にいるくらいは」
「ならなんで、」
「好きだよ、7年も積み重ねて、今更すぐ嫌いになんかなれるわけないでしょ」
放った本音は、どこにも行き場がなくて、陸の耳に届いて、陸は口惜しそうに顔を歪めた。