ブラック・ストロベリー
「アイツのこと、すごい慕ってたもんね陸」
「…アオイくんは、すげえよ」
「うん、すごいよ、有名人だもん」
「ちげえよ!」
陸の声は、夜の静かな住宅街に響く。
陸はそれにハッとして、唇をかみしめた後、ドアを開けて私に入るように促す。
「有名人でも、そーじゃなくても、アオイくんはすげえんだよ」
サンダルを脱いで、家に上がってずんずんと陸はリビングへ向かって行く。
ゆっくりと後を追うと、悔しそうに冷凍庫に4つのアイスを入れていた。
「次のガイド、大阪、なんだろ」
お酒を持って、私の座るソファの横に座ってきた陸が言う。
「うん、修学旅行だけど。言ったっけ?」
「きーた、アオイくんに」
ぷしゅ、と缶を開ける音が静まった部屋に響いた。
「…は?」
「ブラストの大阪公演のチケットもらった」
ほら、と財布から出てきたそれをみて私は目を見開いた。
「…は、なんで、会ったの?」
「会ったよ、今日」
「は?」
「話があるからって言うから、ねーちゃんち行った」
聞いて無いよ、って言えばのんきに言ってねえもんって返された。
やたら、アイツの話ばかりしてきたのはあいつに直接会ったからだったのかとおもうと、今日もう何度目かわからないため息を吐いてソファに脱力した。
「もう、私の家じゃない」
「姉ちゃんの家だよ」
「引っ越す」
「荷物、とってあったよ、全部、そのまんま」
「…そういう問題じゃ、」
「姉ちゃんに、ライブ来てほしいからって、もらったんだよ、チケット」
ひらひら、陸の片手で二枚のチケットが揺れる。
いまではもう、即完売とか言われる、アイツのバンドのチケット。