ブラック・ストロベリー
「…仕事、だよ、何のために大阪行くと思ってるの」
「夜はねえだろ、ガイドなんだから」
ガイドは午後の4時まで。
お客さんをバスで旅館まで届け、そのままその旅館で一泊。
「アオイくんもわかってんだろ、仕事の時間じゃねえって」
知ってる。
仕事の話は、よく聞いてくれるから話していた。
「俺も行くから、一緒に行こうよ、姉ちゃん」
揺れるチケットの一枚が、私の前に差し出される。
『Black Strawberry 全国ツアー大阪』
アリーナ席、アイツが一番ステージから見つけやすいんだと前に自負していた場所だった。
「…行かない」
「行く」
「行けないに決まってるでしょ!」
これ以上、私の意思は変えられない。
ここまでしたの。
家にだって、もう帰る気なんかなくて。
"さよなら"って、紙切れに書いたのが、私とアイツの最後なんだよ。
「嫌いになってねえだろ」
「…嫌い、だよあんなやつ」
「そーやっていつまでも嘘ついて逃げんのかよ」
「逃げるよ、」
カタン、とコップを置いて陸の方を向いた。
「私じゃアイツを、幸せになんかできない」