ブラック・ストロベリー
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家を出て二日がたった。
一瞬だったような気もすれば、まだ二日しか経っていないのかとも思える。
キャリーケース片手にリュックを背負って押し掛けた友達の涼子の家にダラダラと居座っていた。
わたしの顔を見るなり黙って部屋に入れてくれた優しさにわたしはずっと甘えている。
でもさすがにこれ以上お世話になるにはいかない。
「アオイくんと連絡とってないの、あれから」
「着拒にした」
荷物の整理をしている私に話しかけてきた涼子は、食い気味で返した私の言葉を聞いて顔をしかめた。
一方的に別れを告げて一緒に住んでいた部屋から逃げるように出たあの日から、私のスマホはいろんな着信音をたてる。
もちろん決まってあの音色だけは流れない、けれど。
「アオイくん可哀想。まあ、どっちも悪くないと言えば悪くないんだけどさ」
うん、悪くない。
そんなことは分かっている。
あれだけ一緒にいれば、そんなこと信じないのは、たぶんアイツもわかっていた。
だいたいあの男はそんなに器用じゃない。無理に決まっている。
私の鳴りやまない通知の中には、アイツの仲間からの誤解を解くメッセージがありえないほどたくさん届いてる。
とても仲間想いなんだ、それも知ってる。
暇じゃないはずなのに、ね、
なんて未読のまま可笑しくて笑った。
「住む世界が違うんだよ、もう」
ため息交じりにつぶやいたその言葉を、わたしはもうずっと、そう思っていた。
2年前、夢を叶えてメディアの向こう側の人になったバンド。
顔良し、キャラ良し、おまけにアイツが綴る詩とみんなの奏でる音色は、たくさんの人をトリコにする。
MVの視聴再生数は1億をへっちゃらで越えてしまって、紅白確実、とまで言われるようになったバンドのボーカルなんてかっこつけた位置にいるアイツは。
「そりゃ、アイドルと浮気するよ」
今ではもう、手を伸ばしても届かない。