ブラック・ストロベリー
「ヒナセさーん、なんか質問あるらしい!」
後部座席の方、盛り上がっている男子グループのうち1人が通路に顔を出してこちらを向いていた。
「いいですよ、どうしましたか?」
修学旅行のガイドをするとなると、いつも流れは質問コーナーみたいになる。
3日間で仲良くしてくれる生徒さんもいるから、毎度どんな質問でもちゃんと受け答えするのも仕事の一環だと思っている。
「彼氏いるんですかー!!」
顔を出した男の子の隣、窓側の席に座る男の子が座席の間、上から顔を出して私の方を見る。
「バッカお前が相手にされるわけねーだろ!」
「いや、ワンチャンあり得る」
質問をくれた男の子の自信満々な言葉に、どっと笑いが起こる。
きっとムードメーカーなんだろう、周りに冷やかされて楽しそうな彼のほうを見た。
「どうなんですかー?」
「今は残念ながらいないです、でも募集はしてませんねー」
「はい撃沈!」
「はあ、俺の二泊三日詰んだわ…」
笑いを取るのが上手な男の子は、素敵な舞妓さんに出会ってやる、なんてすぐに私から切り替えたのでバスの中はまた笑いに包まれた。
「そんな舞妓さんに出会う前に見学する最初の目的地が見えてきました、みなさんここはどこでしょうか?」
「清水寺だ!」
カーテンを開いた子が声を上げると、みんながカーテンを開き外の様子を見て騒ぎ始める。
「後ろの右側の席の男の子、大正解です。ただいま入っていきますのは京都といえば!なんていうほど有名な清水寺でございます。この清水寺は今は昔……」
事前にに作っておいたガイド通り、もう何度目かになる清水寺の説明をしているとバスは駐車場に止まる。