ブラック・ストロベリー



「ブラストが好きなのかあ、いいね」

「ヒナセさんも知ってるんですか!」


うん、知ってるよ。

平然と答える、その瞳にもう動揺した私は映っていなかった。


「わたし、あの人たちが紡ぐ音楽が本当に好きなんです、恋の苦しい悲しいも幸せも全部、教えてくれるから」


うれしそうに話すその言葉になぜだか私が少し泣きそうになって、精いっぱい笑顔で応えたつもりだけど、自分がどんなにひどい顔をしているかなんて想像もしたくなかった。


「ライブ、行くんですふたりで今度」

「一緒にライブ行くんだ、じゃあ一気に距離縮まるかもね~」


なんて言ってあげれば、そうだといいです、なんて可愛い期待が返ってきたのでほっとした。



今までテレビでみてきた、アイツの歌う姿を黙って見つめるファンの人たちを見るたびに、
どんどん手の届かない存在になっていくことを痛感してきた。

アイツの紡ぐ言葉が、こうしてファンの心の中に存在してくれることが、すごくうれしくて。


でもその反面、遠ざかっていくその背中を黙ってみているだけのわたしがどんどん嫌いになって。



一番に応援してあげなければいけないのはわたしなのに、その頑張っている姿を素直に見守ってあげることがだんだんできなくなった。



アイツの幸せは、あの世界で輝き続けること。



あたりまえにでかい夢をさらりと叶えていったそこに、ただちっぽけな葛藤で頑張れも言えなくなった私は、ただのお荷物でしか思えなかった。


ミキちゃんのような、ほんとうにアイツを応援してくれる、そんな人たちがいてくれるんだ。


こんなに自分勝手な私は、もう必要ないのだ。



なんて。



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