ブラック・ストロベリー



「ヒナセさんは、いつから彼氏いないんですか?」


そんな、もう何考えたって無駄なことを考えているときに投げかけられた言葉に、一瞬ハッとさせられて、わたしは無気力に笑った。



「つい5日くらい前かなあ」

「え!そんなに最近なんですか!」


驚いて私を見つめるミキちゃんは少し気まずそうに聞いてくる。



「この話、しない方がいいですか?」


中学生に気を気を利かさせるほどわたしも子供ではいれないし、一生懸命恥ずかしながら話してくれたミキちゃんには自分もそれなりに応えようと思った。



「全然いいよ、もう終わったことだし」

「何年くらい付き合ってたんですか?」


歩くスピードが、少しだけ遅くなった気がした。

ミキちゃんが緩めたのか、私の足取りが遅くなったのかはわからない。



「んー、7年くらいかなあ」

「え!じゃあ高校生くらいからですか?」


「うん、高2だったとおもう」


おもう、だなんて。
なにひとつ忘れてなんかいない。



記憶を忘れることは簡単でも、失おうとすればするほど、思い出となって残ってしまうから厄介だ。



わたしは、アイツに初めて出会ったあの日から今まで全部、忘れたことはないんだから。

そしてきっと、これからも忘れることはないんだと、思う。



「…ずっと一緒にいて、どうして別れようと思ったんですか、?」



聞きづらそうに、でも目の前に7年も付き合った彼氏と別れたばっかの大人がいたら私が中学生でも同じことをきいただろう。

興味津々に、でもわたしに気を使いながら話を進めてくれるから、中学生なのに大人だなと感心する。



「…住む、世界がね、変わっちゃったの」



中学生相手に、なに本音を話しているんだろう。

でもミキちゃんの話は本気だったから、なんてただの言い訳で。



ブラストが好きなんです、って。

名前が出た瞬間から、アイツのことしか考えられない癖に。


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