ブラック・ストロベリー
「チケット、アイツに渡した」
知ってるよ。
一度手元に落ちたあの紙切れは、また彼のもとに帰っていった。
ごめんね、簡単には渡せないよ。
そういって、少し意地悪に、でも苦しそうに笑った藤さんの顔を思い出して、胸が痛んだ。
「チケットもって、俺のところにこい」
「、だから、行かないって」
「終わらせたいなら俺の前で破ってみろよ、ちゃんと、俺の前で終わらせろよ」
一方的に、終わりになんかさせるわけねえだろ。
息を吐くようにつぶやかれたその言葉に、はっと、息が苦しくなって吐いた。
「ずるいんだよいっつも、逃げてばっかで、」
言葉より行動を選ぶのがこの男なら、
すぐに逃げてしまうのが、わたしの悪い癖だった。
本音を聞きたかった。
でもその本音を聞くのが、怖かった。
はじめてキスされた、あの日だって。
私は黙って逃げた、あの日から何も変わってはいない。
「勝手に消えられたこっちの身にもなれよ」
じゃあ、わたしの気持ちになって考えたことある?
なんて、このちいさな機械越しにいったところでたぶん、答えは返ってこないだろう。
「一人にさせた、それは俺が悪いよ」
けどな。
息を吸う、小さく吐く。
呼吸遣いで、何を言おうとしてるかわかるなんて、
バカだなあ、ほんとう。