ブラック・ストロベリー




「チケット、アイツに渡した」



知ってるよ。

一度手元に落ちたあの紙切れは、また彼のもとに帰っていった。



ごめんね、簡単には渡せないよ。

そういって、少し意地悪に、でも苦しそうに笑った藤さんの顔を思い出して、胸が痛んだ。




「チケットもって、俺のところにこい」

「、だから、行かないって」


「終わらせたいなら俺の前で破ってみろよ、ちゃんと、俺の前で終わらせろよ」


一方的に、終わりになんかさせるわけねえだろ。

息を吐くようにつぶやかれたその言葉に、はっと、息が苦しくなって吐いた。



「ずるいんだよいっつも、逃げてばっかで、」



言葉より行動を選ぶのがこの男なら、

すぐに逃げてしまうのが、わたしの悪い癖だった。


本音を聞きたかった。

でもその本音を聞くのが、怖かった。




はじめてキスされた、あの日だって。

私は黙って逃げた、あの日から何も変わってはいない。




「勝手に消えられたこっちの身にもなれよ」


じゃあ、わたしの気持ちになって考えたことある?


なんて、このちいさな機械越しにいったところでたぶん、答えは返ってこないだろう。



「一人にさせた、それは俺が悪いよ」


けどな。

息を吸う、小さく吐く。

呼吸遣いで、何を言おうとしてるかわかるなんて、


バカだなあ、ほんとう。





< 42 / 99 >

この作品をシェア

pagetop