ブラック・ストロベリー
次々と飛び交う質問に、ミキちゃんはただひたすら知らんぷりして、彼が耐え切れずにもう一度うるせーな!って大きな声で叫んだ。
「俺が告ったよ!悪いか!」
今にも立ち上がりそうなくらいのボリュームが響いて、一瞬静まり返った車内は、すぐに黄色い歓声でまた埋め尽くされた。
「やるじゃ~ん!」
「男気あるなまじ!」
「うらやましいわ~」
さぞ可愛いことだろうな、なんて彼の前の座席の男の子が振り返って冷やかすと、
「うらやましいからってあげねーから!」
勢い任せに発された言葉にはっとしたあと、自分で恥ずかしくなって頭を抱えてしまう。
もちろん、となりのミキちゃんはもっと恥ずかしそうに彼に怒っていた。
初々しいふたりはそのあとも永遠に茶化されては自爆して、最終的には疲れ果ててふたりそろって寝落ちしてしまっていた。
かわいいな、なんて、ミキちゃんの恋が叶ったことが自分のようにうれしくて。
純粋な恋心が、羨ましく思った。
寝静まった車内の中、目的地に近づき私はマイクを手にする。
予定時刻通り、バスは宿の門へ入っていく。
おはようございます、
声をかけると、起きていた子は周りの子を起こし、眠そうに目をこすっている子達も見える。
「そろそろ今日の旅は終わりになります、修学旅行二日目、なんだかいろいろ楽しいことがあったみたいですが、京都のよさもわかっていただけたでしょうか?」
色んな答えが返ってきて、そのひとりひとりの表情が楽しかったことを伝えてくれて、わたしはこの仕事をしていてよかったなと今日も思った。
一分、また一分。
その一分がもっと長く感じてほしかった。
そう思えば思うほど、あっという間に時計は15時の終わりをさしていた。
できれば終わらないでほしい、この小さな空間の中で、時間が止まってしまえばいいとさえ思っていた。