ブラック・ストロベリー
「お疲れ」
相変わらず、どのタイミングで用意しているのかわからない缶コーヒーをわたしに手渡す。
「お疲れ様です」
「ヒナセと仲良くなったあの子が盛り上がってた子だったんだね」
中学生ってかわいいな、運転席まで届いてたその盛り上がりに、彼もその若さに圧倒されたのだろう。
プルタブをかちゃ、開ける音がバスの車内に響いた。
「可愛いですよね、中学生」
「大人になればなるほど、あの純粋さがうらやましくて仕方ないよ」
藤さんもそんなこと思うんだ、もらった缶に口をつけて二口、ほろ苦い癖のある味が口内に広がっていく。
コーヒーを飲めるようになった社会人一年目で、自分はもうとっくに大人になっていたことに気づいた。
「素直さが、羨ましい?」
笑いながら私に問いかける藤さんにわたしはおとなしくうなずいた。
もういまさらこの人に強がったところで通用しないんだ、めずらしい素直さに笑った後、藤さんはわたしの名前を呼んだ。
「ヒナセ」
そんなこと言わなくたって、藤さんは十分にまっすぐだと思った。
ふたつ上、お兄ちゃんのように頼れて、信頼できる上司。
いつからそうやって、わたしのことを見てくれていたんだろう。
「答えは、でてるんだろう?」
その言葉にわたしは、否定も肯定もしなかった。
そんな私を見て、相変わらず強がるなあ、と笑われる。
その言葉に首を横に振る。
__私はまだ、答えを出せていなかった。