ブラック・ストロベリー







わああ、と会場が沸いて、アオイはアコギ一本をもってステージに立った。


どれだけ遠くにいてもわかった。

家で、私にうたってくれる時に使ってる、高校生の時自分のお金で買ったギターだ。





「アオイがアコギ持ってるの初めて見たかもなあ、」


「てことは、弾き語り?」




周りからそんな声が聞こえて、そういえばアオイは、あのアコギを高校卒業してから外に持ち出したことはなかったなあなんて思った。




「つぎの曲は、MCさぼったアオイ一人でお送りします」


ヒラヒラと手を振りながらステージの袖にはけていくメンバー。


アオイ一人になって、アオイがマイクを持つまでの時間はそんなになかったのに多分、みんな長く感じてた。




しん、静まり返ったこの会場の誰もが、スポットライトが照らされたそこをみていた。




誰もが、アオイをまってた。







「──久しぶり」



発した一言目、まるで空を仰ぐように、視線は真っ直ぐ二階席くらいを見つめて、アオイはそう言った。




「今日MCサボったのはまあ腹が減ってたのもあるけど、この時間もらうためっつーか、まあ、色々言ってたら日が暮れるし一言言わせて」



マイク一本。

アオイが発する言葉ひとつひとつを、誰もが逃さないように、ただ黙って耳を傾けていた。





「弾き語ります、一番聴いてもらいたい人が今日来てるから」





なあ、聴いてろよ




聞いたことセリフを口にして、視線をこちらに向けた。




──目が、合ったのかなんて、わからないけど。


自惚れてるわけじゃない、けれどそれが、誰に向かって言われた言葉なんて、もうとっくに分かってた。





アコギ1本、弾いた指が、高い音色を奏でる。



いつもは煩いくらいの会場も、まるで正反対のように静かに、ただその前奏を聞いていた。






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