ブラック・ストロベリー
「ミホちゃんは?」
「ダチんとこ泊まるって」
「えー、今度来るときは連れてきてね?久しぶりに話したいなー」
「やだよ、未穂に絡むな」
ウザったそうな顔をする陸に、むっとして言い返す。
照れ隠しなのはもちろんわかっている。姉に彼女の話を吹っ掛けられてこうなるのはまだまだガキンチョの証拠だ。
「いいじゃん将来の義妹じゃん、早くプロポーズしないと捨てられるよ?」
「うっせーな、自分は別れたんじゃねーのかよ」
まるで私がどんな顔をするか逃さないように、こちらを向いてはっきり言った陸の言葉に思わず言葉が詰まった。
「…は、なんで知ってんの」
「さーな。てか報道みたし。捨てられたのは姉ちゃんのほうじゃん」
わたしが自ら実家に帰るなんてさぞ不思議だったのだろう、陸は図星かよなんて呆れたようにこちらをみてはため息をついた。
「捨てられる前に自分から切ったから、なんも悲しくないけど」
なんて強がって言って見せるけど、この家のなかじゃそんな強がりは陸にもお母さんにも通用しないらしい。
「原因はアオイくんの報道?」
お母さんがカレーをよそいながら聞いてくる。
「んー、まあ、それもあるけど」
「はあ?けどってなに」
相変わらず態度の悪い陸は椅子に座りながら不機嫌に私をじっとみつめた。
「なんか、違うじゃん、生きる世界が」
「…それだけかよ」
「あんたにはわかんないよ、アイツがどれだけ大変で、どんだけ遠くて、どんだけ有名かなんて」
私だってわからない。
あの人がどれだけ苦労してるかなんて、ちっとも知らない。
となりにいた、けどその世界にわたしは触れられなかった。
芸能界がどんな場所かなんてたぶんこれからも何一つわからない。
二年前は、隣にいたのに。
今ではもう、形だけだった。
隣にいるだけで、距離はとても遠かった。