ブラック・ストロベリー
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「 アオイって、やっぱ彼女いたんだね〜 」
「まあそうだよねえ、じゃないとあんな恋愛知り尽くしたうた書けないよね」
「あの曲、どういう意味込められてたんだろう?」
「失恋ソングにも聞こえれば、ドストレートまっすぐな告白のうたにも聞こえるからなあ」
「 曲名は任せますって、あれ意味深 」
外は真っ暗だった。
会場を出て出口に向かう。
熱気で包まれていたそこに、外からの冷たい風が入り込んで、頬を掠めた。
ラババンをつけて、マフラータオルを首にかけた人たちが、ぞろぞろと駅に向かって歩いている。
「なあねーちゃん、久々に会う顔がそれだとなかなか笑えるよ」
「うるさいな、いまからちゃんと直して来るしまず鏡みたけどそんな酷くないから」
下瞼は赤めのシャドウを塗っているわけじゃないのに真っ赤で、このままじゃあ泣きはらしたことがばれてしまう。
よくいうよ、なんて返しが来たけど無視してトイレに逃げ込んだ。
化粧室、鏡を見てそのひどさに絶句する。
陸に笑われて当然だ、強がってひどくないといったのを訂正したかった。
バックからポーチを取り出して開く。
ひらいて、どこから直そうと鏡の自分ともう一回向き合った、けれど、わたしはそのポーチの中身を取り出すことなく閉じた。
「は、直さねえの?」
すぐに出てきたわたしと、その何も変わっていない顔面を見て陸が驚いた顔をする。
「アイツに会うくらいで直そうと思ったわたしが馬鹿だった」
よくよく考えてみる、
なんでわざわざアイツのために化粧直しをしなきゃいけないのだ。
無理矢理呼んだそいつのために、繕おうなんて、今更馬鹿馬鹿しい。
どんな姿も見せてきた、
今更別に、化粧を直そうが直さまいが笑われるのだって目に見えてきた。
でも、口は利かない。
結局音楽に逃げて、何も言わないアイツなんて、言葉にするまでかたくなに無視してやるってことはもう決めている。