ブラック・ストロベリー
ねーちゃんらしいわ、
あきれてため息交じりに笑う陸に、なんとでもいいな、なんてうだうだ言っていた。
陸の視線がわたしからその奥へと移動する。
「あ、」
そうやって呟いて、その方を振り向く前に口元を大きな手に塞がれた。
「陸、これもらうわ」
「うん、あげる」
陸がひらひらとこっちに手を振っている。
ドーモ、ゆるい返事を返したその後ろの声に何を反論したくても、その大きな手のひらが覆ってるから何も言えなかった。
離して、首に回されたその腕はびくともしなくて睨めば、こちらを見下ろして、何も言わずに足を進める。
何も言わないから、その脛を蹴飛ばした。
「いって、」
表情を歪ませているのだろう、
サングラスに覆われたその奥に、
どんなにひどい顔をした私が映っているかなんてわからなかった。
「…なんだよ」
それはこっちのセリフだよ、
何も言わずにらみつければ、あっそ、なんてわたしから視線をずらし、捕まって歩きづらい私を無理やりどんどん奥に連れ込んでいく。
そのせいでわざとじゃないけどその足を3回くらい踏んだ。
別に悪気はない、しいて言うなら自業自得。
痛かったのか回された腕は解放されて、代わりに左手がその右手に捕まった。
こっちを見向きもしないで2歩先をあるく、
それはライブ会場の奥に向かっていた。