ブラック・ストロベリー
「あ、ミサキちゃん」
ライブ終わったあとのメンバーと鉢合わせたけど気にせずアオイはぐんぐん進む。
「あーあ、マジで俺らにはアオイ手に負えねえわ!」
遠ざかる中、剛くんの呆れた笑い声が聞こえてそちらに一度目を向けたら、握られた手の力が余計加わった。
「余所見してんじゃねーよ」
どこまでも強引な男だ。
いつまでたっても周りなんて見せてくれなかった、そのせいで今もわたしにはこの男しか映っていない。
わけわかんない迷路みたいな会場内をひたすら進んで、とうとう人気のなくなったところでアオイは止まった。
「おい、」
サングラスが外された。
あの、遠いところでスポットライトの下にいた、その男がわたしの目の前に立っていた。
不機嫌な顔、見下ろされるその瞳から思わず逸らせば、ふざけんなよ、ってもう片方の手に無理矢理正面を向かされた。
相変わらず、左手は離してくれない。
背けられないならせめてもと視線を泳がして、それでも絶対そこに視線を重ねてこようとするから必死で逃げた。
ライブに来ただけ、有難いと思ってよ、あんたの思い通りでしょう。
でもやっぱり、目元だけメイクで隠してくればよかったなんて、いらない後悔をしてた。