ブラック・ストロベリー
「その口は喋る以外のなんのためについてんだよ」
いつまでたっても言葉を発さないそこに、指先が触れる。
その指に心臓がドク、と反応するけど、それに気づかないふりして無理矢理顔を横に振った。
気の緩んだその手が、一瞬わたしの顔から離れる。
それに対して舌打ちが落とされて、わたしは睨み返す。
離してくれないアオイの右手の力は、どんどん強くなっていく。
わたしは捕まっていない右手をポケットに突っ込んで、一枚の紙切れをそいつの目の前に差し出した。
「、へえ、俺の前で破ろうって?」
表情を歪ませたそこに、遊ぶようにチケットをひらひらと泳がした。
「振り回すのもいい加減にしろよ」
その右手が捕まって、無理矢理引っ張られた。
悔しそうなその表情がわたしを逃がさずに、近づいてくる。
「―、」
噛みつくように奪われた唇が、不機嫌にわたしの口内を犯す。
たった数日の離れた間を埋めるように、ちっとも終わらないそれに、息が苦しい。
流されて離れられない、それが悔しくて、息を吸い込んだその瞬間、わたしはその下唇を噛んだ。