ブラック・ストロベリー
何にもおかしくない、
意味わからないくらい全力で笑うその姿すら、見るのが久しぶりだった。
困惑と同じくらい、それをみるだけで苦しい。
言葉が詰まって、へんてこな顔してみれば、まっすぐすぎるその視線がわたしに訴える。
「よく言うよ、」
左手を逃がさないその癖のせいで、別に片手だけでほかのことをするのも得意になったよ。
その右手が、離れても忘れられなかった。
「 なんも言わずに逃げたくせに 」
逃げた、
その右手からも、自分の言葉より私の言葉を引き出そうとするそこからも。
でもそれは、アオイのせいだ。
わたしに押し付けたその責任にムカついて、
右手を少しでも忘れなかった自分が悔しくてそこに力を込めた。
やっぱり最低。
「あんたが、帰ってこなかったんじゃん」
こわいなんて、言えなかった。
ただ黙って傍にいてくれれば、それだけで安心できた。
大丈夫だから、心配すんな、俺がそばにいるから、
そんなありきたりな言葉が欲しかったの、言ってくれないことなんてわかっているのに。
「いい加減にしてよ、わたしが何考えてるか聞こうともしないで、勝手にそうだと決めつけて、理解なんてしてくれないし、」
「なんも言わないやつを理解できるかよ」
「じゃあ聞こうと思ったことある?」
アオイは黙った。
考えたように静まったから、力を入れていたその手のひらを振りほどこうとした。
けどやっぱり逃がしてなんかくれなくて、
逃げんな、なんて言うからどこまでも都合いい男を睨んだ。