ブラック・ストロベリー
「…本当に、もう別れようと思った、」
二度と会わない、もう会えない、
そう決めたのに結局私はここにいる。
奪われたチケットを、ほんとうは目の前で破ってやろうと思った。
それが奪われる前から、とっくに、そんなことできないってわかっていたのに。
悔しくて震える唇を噛んで、じわじわ滲んでくる涙に見ないふりして続けた。
「どんどん遠くに行くし、置いてくし、帰ってこないし、否定の言葉だって全部嘘に聞こえるし」
信じたかった、
信じてたんだ、ずっと。
言葉になんてしてくれなくても、じゅうぶんだった。
でも言葉にしてくれないから、不安だった。
「 ごめん 」
「そんな言葉聞きたくない」
謝れば許されるなんて、そんなこと思ってないくせに。
じわじわ滲んだ涙がとうとうこぼれ落ちた。
灰色のコンクリートに真っ逆さまに落ちて、それが黒くにじんだ。
もうひとつ、落ちる前に、
アオイの長い指がそれを掬った。