ブラック・ストロベリー
「あんたテレビ見た?アオイくん、あんだけ全否定のコメントしてたじゃない」
カレーをリビングに運びながらいうお母さんに、私は思わずため息をつく。
「みたよ、見てなくても否定のメッセージは止まらないし、飽きないよね、メンバーのみんなも。剛くんなんて毎日くれるし」
「芸能人相手に未読貫いてんの?姉ちゃんやるじゃん」
「返事のしようがないでしょこんなの」
少なくとも私はこの結末に納得しているし、自分が決めたことを今さら変えようなんて思わない。
アイツがどう思おうが、あの人たちがアイツを支えてあげればいいんだ。
そっちの世界で生きていくなら、わたしはもう、何も支えられないし、隣にいる自信もない。
「頑固だな相変わらず」
「うるさいよ」
「これで深咲も独身かー、アオイくん捨てるなんてもったいない」
「どうせ捨てられるかもしれないでしょ、遠い遠いバンドマンなんだから」
いつか捨てられるかもしれない。
あの報道が出たとき、心のどこかにあった少しの不安が急にあふれ出して、怖くなった。
捨てられて傷つくくらいなら、傷つかないうちに離れなければいけない。
テレビをつければそこにいるアイツを、もう何とも思わないと思えるようにならなければいけない。
「ちっとも信用してねえなアオイくんのこと」
陸は少し怒ったように吐き出した。
無理もない、アイツをかっこいいって慕って仲良くしていたのだから。
でも私がいなくたって仲良くはできるだろう。
陸はこれからも、アイツと関わればいい、それだけだ。