ブラック・ストロベリー
お母さんが席について、陸が3人分のビールを持ってきてそれぞれの前に置く。
わたしの前に少し強く缶が置かれて、わたしはため息をついた。
「信用どうこうの問題じゃないもの」
「…わけわかんねー」
わかんなくていいよ。
これはわたしの問題だから、誰かにわかってもらおうだなんて、思ってない。
「まあ、今日はじゃあ深咲の失恋慰め会ってことでお母さんも久しぶりにたくさん飲んじゃおうかしら」
「大の大人が失恋だってな」
「陸はそろそろ黙りな」
「深咲を誰か素敵な人もらってやってください、カンパーイ」
なんとも不快なメッセージ付きの合図で、それぞれに缶ビールの蓋を開ける。
お母さんはたぶんテンションを無理にあげて私が落ち込まないようにふるまってるんだと思う。
そんなことしなくても大丈夫だよ、って本当は言いたいけれど、今日ばかりはお母さんの優しさに甘えようと思った。
「あーうま」
「もう自分の子供とお酒飲めるなんて年取ったわお母さんも」
「それで若いと思ってたのかよ50歳」
「やめて、聞きたくない歳なんて」
「お母さん現実逃避はだめだよ」
相変わらず何年たっても実家の夜は騒がしいものである。
こどものころから、こうやってみんなでご飯を食べるだけで少し自分のなかが軽くなったような気がするんだ。
久しぶりにビールを飲んで、お母さんのカレーを食べたら、すこし肩の力が抜けてやっぱり実家は偉大なんだと思った。