ブラック・ストロベリー
「…わたしは、嫌いな人の部屋に行かないし、嫌いだったらこの手だってずっと前から拒んでたし、ふたりきりにもならない、わざわざ時間作らない」
「うん、」
「でも、好きな人にはちゃんと好きって言ってもらいたい派」
ずっとそらしてた目を元通り、アオイの真っ黒な瞳に合わせれば、目の前の男は少し悔しそうに笑って、頭をこつんと殴ってきた。
「生意気だな」
「嫌いじゃないでしょ、こういう女」
繋がってない方の手のひらが背中に回されて、そのまま思いきり抱きしめられた。
抱きしめられるのは初めてだけど、べつに、嫌じゃないって思った。
「お前だけで十分だわ」
「ふーん」
しょうがないから、からっぽだった右手をアオイの背中に回せば、うれしそうに、アオイは笑った。
「 ミサキ 」
「なに、」
「なあ、俺こないだお前が作ったオムライス、たべたい」
「は、たまご嫌いって言ったじゃん」
「なんか、ミサキのなら食える」
「なにそれ」
馬鹿じゃないの、って笑ったら、急に顔上向かされて、目の前にアオイの顔があった。
「なあ、俺バンドマンになるけど、離れるの許さねえよ、いいの」
「わたしのこと、おいてかないならいいよ」
目の前で幸せそうに笑って、そのまま距離がなくなったら、まだ二回目だけど、なんだか、少し幸せだって思った。
「 結構、好きだよ 」
「、なにそれ」
「 ウソ、嫌いだよ 」
「 ふーん、いいよ、わたしも嫌い 」
嫌いだよ、って言ったのはそっちのくせに、嫌いって返せば、不機嫌そうな顔をする。
自分勝手なこの男の、隣にいるのはわたしがいい。
「…まじで、好きだから、たぶん一生離さない」
しょうがないから、ずっと隣で、アオイのバカみたいに真っ直ぐなうた、ずっと聴いててあげるよ。
だから、ずっと、離さないでよね
( 高校2年生の秋、付き合ってもないのにアオイがキスしたせいでテンパって逃げまくったミサキと、いい加減付き合いたかったアオイの話 )
( お互いが自分に好意があることは何となく気づいてた )
( けどやっぱり、このときから簡単に素直になれなかったらしい )
( アオイのオムライス好きはミサキのせい )
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