ブラック・ストロベリー
「 お前がどれだけ俺のこと好きとか、そんなん知ったこっちゃねえし、お前だってまず全然言葉にしねえし、不安なんてねえけど、他の男に取られるのだけはマジで無理 」
「 他の男に取られるような女だとおもうの? 」
「 思うよ 最近余計綺麗になった。すげえうぜえ 」
アオイの人差し指がつーっと頬を伝って、首筋をガリッと掻いた。
「 っ、」
「 わかってんだろ、俺が溺れてんのくらい、それを調子乗って手のひらで転がしてんじゃねえよ、」
アオイをと手のひらで転がしてるのが私なら、私をくるくる指の上で回してるのはアオイだ。
「 好きって言ってよ 」
「 、は? 」
「 安っぽくてもいいよ、好きって言って 」
アオイは好きって言わない。
お前には言わないって、ありきたりな安っぽい言葉だからって、バンドマンからしたらそうなのかもしれないけど、わたしの周りの子達は、好きって言葉に幸せを感じてる。
わかってるよ、だから、たまにでいいから、言葉にして、わたしを普通の女の子にして。
「 無理矢理言わせてまで? 」
「 だって言ってくれないから 」
「 言って欲しいの? 」
アオイの口角が少し上がったのは、わたしが普段素直に言ってほしいなんて言わないからだと思う。
こくんと、上下に頭を動かせば私の行く手を塞いでた右手が私の右手に落ちてきて、いつものようにぎゅっと握った。
付き合っても、すぐ手を繋ごうとするところちっとも変わらない。
ギターを奏でるこの手が、私を求めるこの手のひらが、わたしは愛しくてしょうがない。
「 嫌いだよ 」
ほんとう、悪い癖だなあ。
わたしの口癖が、いつの間にかふたりの口癖になって、素直じゃない言葉はグサってわたしの心臓をさすけど、こう言われるの嫌いじゃない。
「 …ふーん 」
意地悪、性格だっていいものじゃないし、さんざん振り回されてもう4年が経つけど、悪戯に笑うその顔は、もしかしたら一番すきかもしれない。
「 全部ムカつく、俺のこと振り回しまくって、挙句に他の男とは仲良くしてるし、俺が嫉妬しても知らん振りするのも分かってるくせに聞いてくるのがうぜえし、無理矢理でも好きって言わせたいってなに?俺の気持ちちゃんと伝わってないわけ? 」
「 付き合うときに言ったもん 」
「 好きって言ってほしいって? 」
「 そうだよ、」
アオイの真っ直ぐな瞳が、ジリジリと私との距離をつめて、もう少しで重なるところで、焦らすように止まる。
「 ちかいよ、」
「 キスして 」
「 は、」
「 キスしてよ、ミサキから 」