ブラック・ストロベリー
あと一押しすればくっつくこの距離で、ニヤニヤと口角をあげて余裕そうな顔をしている。
わたしの方が先にお願いしてたのに、本当に、ムカつくやつ。
きっとこいつはわたしが無理って言って顔背けて嫌いっていうことをもうわかりきっていると思うから、
あとすこしのその距離を、自分からゼロにした。
思えば自分からキスなんかしたことなくて、本当に、死ぬほど恥ずかしいけど、アオイの半分しからいつも言葉にしないから、今日だけは、まあいいかなって、なんかそんなことを思った。
「 きらい、 」
唇が離れて、驚いたようにわたしを見つめるアオイに、今日ばかりは素直になろう。
「 他の男なんて見るわけないのに妬いて怒って、全然素直じゃないのに、いつも音楽にしちゃえばなんでも言えて、言葉にしてって言っても全然してくれないしわたしの理想の彼氏とは全然ちがうし 」
背伸びして届くのがやっとで、たった4年間でまた身長伸びて余計かっこよくなって、たまに、わたしを愛おしそうに見下ろしてるところとか、キスするときに少し屈むところとか、
ミサキ、って、わたしを呼ぶ声とか。
「 ほんとにむかつく、こんなに好きになるなんて思ってなかったのに、」
アオイのせいでわたしはまいにち一喜一憂する。
アオイが悲しかったらわたしも悲しいし、
アオイが楽しかったらわたしも楽しいし、
アオイが好きって思ってくれてるときは、わたしもアオイを好きだって思ってる。
「 アオイは言葉にできないって言うから、今日はわたしがたくさん言うよ、アオイは言えないもんね 」
べーって、舌だしてばーかって呟いて、じっと見つめれば、アオイは見たこともない顔をしていて、思わず吹いてしまった。
「 アオイがすき 」
わたしの言葉ひとつで、一喜一憂すればいいと思う。
振り回したいの、わたし以外見れないように好きになって欲しいの。
アオイのことばっか考えると、どうしても重たい女の子になってしまう。
ずっと一緒にいるから、アオイが照れたりすることなんてもうなくなってたのに、高校生のときみたいに、耳まで真っ赤にさせて、私から視線を逸らした。
「 目をそらすな、ばか 」
一度決めてしまえば、きっとあとになってとたんに恥ずかしくなるんだろうけど、なんだってできる。
繋いだ片方の手に、ぎゅっと力を込めれば、しぶしぶアオイはこちらを向く。
「 …まじで、殺されそう 」