俺様社長の溺愛宣言
零士の心配とは裏腹に、一馬は部屋には居らず、ホッとした。

零士は一足先に会社に向かった。

…会社に向かう電車の中で、今後の事を考える。

一馬と父をどうやって説得しようか?どうやったら諦めてくれるか?

…と、考えているが、今現在、満員電車の中で、人に揉まれて、思考回路が途切れ途切れになる。

「…?!」

…誰かが私のおしりを触っている?

満員電車なのだから、手が当たっているだけかもしれない。そう思ったが、確実にお尻を撫で回している。

気持ち悪い!叫び声を上げたいのに、羞恥心が働いて声がでない。

早く降車駅に着かないかと、冷や汗を流しながら我慢していた。

「…あんた」
「「…?!」」

誰かが、痴漢の手を捻りあげた。

「…水嶋さ」

「…次の駅で一緒に降りてもらいますよ」
「…」

言葉は丁寧でも、低くて怒っているのがよく分かる。三人で同じ駅に降りると、痴漢の男は、奏の手を振り払って逃げた。

「…あ、おい!「…水嶋さん!いいです、もう」

必死に止めに入った私の顔を見て、奏は戦意喪失。

安心感からぼろぼろ涙を流す私を見て、奏は溜め息をついた。

「…大丈夫?」
「…はい、助けてくれてありがとうございました」

頭を下げると、頭をポンポンと叩いた奏は泣き止むまで待ってくれていた。

「…会社、行かなきゃですね」
「…うん、まだ間に合う」

私の横に並んで、奏は歩き出す。
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