以心伝心【完】
「見て、あたしの力作!」
テーブルにはカルパッチョ、コーンスープ、マカロニグラタン、焼きたてのフランスパンとマーガリンやジャムが数種類置いてある。
ここまでは豪華に見えるのになぜか飲み物だけは普通のコップにお茶が入っていた。
まったく最後に手を抜くところが真らしい。俺としては最後まで決めてほしいんだけど。
「ご飯食べたあとはデザートもあるから!」
目の前で笑う真を見たら、そんなことも忘れてしまう。豪華料理の理由とか、今日はやけに機嫌がいいこととか、そんなのどうでもよくなる。
レストランのように並べられた夕食をまじまじと眺める。
初めて見る皿。食器や家具や家の中の物は大体把握してたつもりだけど、こんな食器があったなんて知らなかった。
共同生活にしてからは部屋の片付けはほぼ毎日真がしてくれていたし、物を移動したり、増やしたり減らしたりした後は全部真に任せっきりだった。当然、知らないことはいくつか増えている。
「なぁ、食べよ!うち、圭一帰ってくんのむっちゃ待っててんから!」
言い方は相変わらず強いがこれも慣れてしまえば何てことない。ほんの些細なニュアンスを知ってしまえば可愛く見えてくるものだ、なぜか。
まずはスープ。コーンスープの匂い。
綺麗にミルクで模様が書いてあって小洒落てる。変に器用な面があるのも真らしい。
一口ふくんで一時停止。この味に覚えがある。
「真、お前これ」
「あははっ」
あははって、これは市販のコーンスープ。しかも冷蔵庫に今朝まであったし。ついでに俺の愛飲食。
口に出して機嫌損ねられたら雰囲気ぶち壊しだから言わないし、他は普通に美味い。こんだけ出来るなら普段も作ってくれって感じだけど。
相変わらず真はニコニコしながら食べてるし、俺は理由がわかんないし、なんか気持ちのズレがあるような気がするけど、こんな日もあっていいか、と真の顔を見ると自然に顔がほころびる。
「デザートもあるねんで」
一通り食べ終わるタイミングでそう言いながらキッチンで準備をする真が持ってきたのは、チョコのシフォンケーキとシャンパンに凍結させていたボール型にくり抜いたフルーツを入れたお酒を持ってきた。
「なにこれ。焼いたの?」
「焼いたよ」
「焼けたんだ?」
「まぁねー」
なんで今まで作らなかったんだ!とほんとに言ってやりたい。
お気に入りの店のシフォンケーキ買うより断然安いだろって言ってみたってどうせ「あたしが作るより美味しいやん」とか言うだろうし、なんだか気合が入ってるから言わないけど。
フルーツはメロンやスイカ、葡萄などいろんなものが入っていた。
何だよ、何だよ今日の真は。
なんでこんな料理作ったんだ。
ほんとわかんねえ。
いつもの数倍豪華な料理をいつもの会話で食べ終えたあと、真が思い出したように立ち上がり、「ちょっと待ってて」と部屋に入った。それと同時に携帯が鳴った。
『もしもし、圭?今から出てこれない?あ、真ちゃんも一緒に!』
「はぁ?真もだぁ?」
『一緒にいるんだろ?あ、イチャイチャしてた?』
タイミング悪かった?と笑う後ろでは冷やかしの声が聞こえる。
どうせいつものメンツで飲み屋にでもいるんだろう。わざわざ真まで呼ぶ必要ないし、呼ぶなら俺だけでいいだろうって呆れた。
迎えに行くから待ってて、と冷やかしの声に紛れて聞こえたと思ったら切れた。
いつも唐突のうえに返事を返す前に迎えにくる。有無を言わせないこの行動パターンにも最近は慣れてきた。
「誰から電話?」
いつの間にか戻っていて、目の前に座っていた真が片肘ついて見ていた。
「アヤが今から迎えに来るって。お前も一緒に来いってさ。行く?」
なんだか自分のテリトリーの中に真を入れるってことに違和感を感じて、連れて来いって言われてんのに聞いてしまった俺。もちろん、返事は「行かへん」と返ってきた。
その返事に無意識に出た長い息。少しガッカリする俺。視線が下がって、心臓がキツイ。
・・・なんだこれは。
「アヤが来てほしそうだったけど」
そう言っただけなのにおもいっきり睨まれた。どうやら真の機嫌を害したらしい。