以心伝心【完】
「だって、嫌いやったもん」
うん、それは俺も同じ。あの時はお互いの存在が苦手だった。
学部違うくせに後藤とアヤを繋いで知り合った俺たちは会えば言い合ってた。互いに気にくわなくて嫌いだった。
今もそうだって言われたら本気で泣くだろうけど、さりげなく過去形になってた言葉に胸を撫で下ろした。
「ルームシェア始めたときのこと覚えてるやろ?ほんまに、」
「じゃあ、今は?」
『ほんまに、』のあとに“嫌いやったねんもん”って言葉が続くんだろうなって予想出来たから無理矢理ねじ込んだ。今のことじゃないってわかっててもへこむし、今はその単語を聞きたくない。
だからって「今は?」って勢いで口にした俺は考え無しのバカだ。まだ受け止める覚悟もしてないのに自分から催促するなんて。でも言ったもんは仕方がない。 今更「今の発言取り消して」なんて言えやしない。
俺の言葉に大きな目を見開く真。今日は見たことない真ばっかりで新鮮で、なにより可愛い。
真の視線が俺の右手に向けられているのを見て、自分が無意識に真の頬に触れようとしていることに気付いた。
柔らかい肌を指先で感じると目の前で俯きながら激しく目を泳がす真。可愛すぎて思わず吹き出しそうになったけど、その余裕も一瞬で消えた。
真が顔を真っ赤にしながら俺を見上げるその上目使い。どうやら真は俺の理性を飛ばそうとしているらしい・・と勘違いしそうになるくらい可愛い。だけど、それは一瞬で消える。
「圭一、実はチャラ男やな」
「へっ?!」
油断しすぎて思わず声が裏返って変に肯定した俺。
間違ってないけど、いきなり言い当てられると焦る。自分の過去だし、隠すつもりなんてないけど、言い当てられると気まずい。
言い当てた本人は“やっぱり”って呆れたような顔。俺の反応が予想通りだと言うように鼻で笑うから頬に触れたままの手でつねってやった。
「いはいぃっ!」
形勢逆転を狙おうなんざ甘い。負けず嫌いな真だから珍しく優位に立つ俺にムカついてのことだろう。
考えることがわかるのは真だけじゃない。だてに3年暮らしてない。毎日見てりゃ性格や考えてることくらいわかってくる。
「どんな顔しても一緒」
悔しそうな顔を見て、少し優越感に浸りながら笑ってやる。また赤く染まってく顔。ここまで素直に反応されると期待したくなる。
至近距離。拒否しない真。このままキスしちゃっても怒られないんじゃねぇの?ってくらい見つめてくれる大きな瞳。
ん~、どうしよう。このままキスでもしとく?とか考えつつも結局出来ない俺。
今までの俺なら絶対してた。だって、今の状況なんか無防備すぎて隙がありすぎる。
他の男だったら絶対奪われてる。それくらい隙つくりまくってる。他の男なんかにそんなこと絶対させないけど。
チャンスに手が出せないって、俺の中では相当好きになってるってこと。
今までみたいに流れとかノリでキスなんかない。なにより、そういう男だって思わせたくない。できれば順序を踏んで、ひとつずつクリアしていきたい。それに、この雰囲気のせいで忘れかけてたけど、俺たちはまだ恋人同士ではない。
ちゃんと言葉にして、伝えたいって思うし、真の気持ちが同じじゃなくても、いずれそうなるようにしたい。てか、してやる。
ここまで気持ちがあったら言っても悪くないよなって思う。気付いたのは確かに遅かったけど、ちゃんと守ってやりたいって思うし、これからも一緒にいたいって思う。
もうすぐ終わるからっていう同情や寂しさからなんかじゃない。本当に心から好きだって思えるから。
「卒業しても、ずっと俺の傍にいてよ」
「え?!」
「俺の傍にいて」
顔を真っ赤にしながら突然の言葉にあたふたする真を抱きしめた。