以心伝心【完】
真の大好きなユニセックスの香水が香る。俺も大好きな匂い。甘くなくて、媚びない真にぴったり。
実は俺の香水も同じブランドで真の香水のシリーズ。いつだったか真と買い物に行ったときに立ち寄った香水ショップで見つけた香水。真が手にとったのがコレで、すんごく気に入ってた。
『この香りに抱きしめられたい~!!』って言ってたのをまんま鵜呑みにして購入してつけてる俺。女みたいだけど、真が言うからそうしちゃったわけで。
真がこの香水に気付くかどうかはおいといて、俺がつけたのを嫌がったりしないかどうかが気になる。
少し体を離して距離をとると見えた顔。吃驚したような、困惑したような、複雑な表情。その表情に俺も複雑な気持ち。
何に対してその表情なのかはわからないけど、嫌がってないことはわかった。ただ雲行きが怪しい。
一度離れようと真の背中の後ろで組んでた手を離すと同時に腕の中にいた真が俺の服を掴んだ。
「この香水」
バレた、らしい。というか、気付いたらしい。
前に使ってた香水を知ってるのか知らないのかはわからないけど、この香水には気付いたよう。
その言葉に続く言葉はなく、今の雰囲気はなかったかのように俺の腕からするりと抜け出し部屋に入って行った。
どこまで自己中なのか。俺の告白と行動は全てスルー。
特に冗談めいた雰囲気でもドッキリでしたーって感じでもなく、超真剣にしたことなんだけど、こうも簡単に流されると、さすがの俺も黙っちゃいられない。
もう真の気持ちとか知らないし。
放置された俺は消えた真の後を追い、迷わず部屋を開けた。
「お前、放置とかありえな・・真?」
部屋はもぬけの殻・・・ではなく、ベッドの隅に座り込んで膝に顔をうめていた。近付いても動かないから入室許可がおりてるんだと思ってベッドに腰掛けて目の前に座った。
どんなに話し掛けても近付いても無反応。隠れてる手が怪しくて引き抜こうと触れたら避けられた。
正直、傷ついた。しかし今の俺は昨日までの俺ではない。有無を言わさず拒む両手を引き抜くと何も持っていなかった。
今度は体が力んでくのがわかって何か隠してるんだって気付いた。だから怒られるのを覚悟で真を壁から引きはがし、お腹を抱えるようにして自分に引き寄せるとコロンと出て来たラッピングされた小さな箱。
「あっ!」
手を伸ばすものの俺に抱えられてるために手の届く距離もしれてる。
「ちょっと!返して!!」
ラッピングされた箱を手に取ると今度は暴れはじめた。
「ちょ、暴れんな。なに、どうしたの」
「返してっ!圭一のアホ!!」
腕の中で動き回る真を少し強い力で抑制する。もがきながら聞き捨てならん真の言葉も無視して箱を軽く振ってみると、カタカタと音がなって少し重い。外見からしてまさかとは思うけど。
「プレゼント?」
その言葉にぴたっと動きを止めた。どうやらそうらしい。
それなら別にあんなこと言わなくてもいいじゃん。心の強い俺でも傷つくもんだ。
「開けていい?」
「無理」
「は?」
真はたまに意味不明なことを言う。
今のとこはイエスかノーだろ。無理ってなんだよ。しかも即答ってどうなのよ。しかも、超仏頂面だし。
「なんで?」
「あかんもんはあかん!」
「俺にくれんじゃないの?」
「・・・」
「なんでダメなの?」
拒否したと思ったら次はだんまり。わけわかんないのはいつものことだけど、こんなにわかんないのは初めてかもしれない。
理解しようと思わなかったのもあったけど、理解しようとすることがどんなに困難なのか今知った。いや、真だからかもしれないけど。