以心伝心【完】

「圭、お皿準備して」
「あいよ」

これが朝の風景。
私が朝食を作って圭一が準備をする。こんな毎日も3年目になる。

ただ、これは同棲ではない。
ただのルームシェア。

「おい、真。これすげえマズいんだけど。何入れたんだよ」
「え〜?・・・あ、ほんま。くそマズい」
「こんなもん朝から食わすなよ」
「文句あんなら食べなくて結構」
「おい、矛盾しまくってんだろが」

料理が苦手な私が作った日は自己中な私のせいでいつも言い合いになってしまう。

自己中な私。
温厚な圭一。

そんな私たちの共同生活。

見てもわかるように私たちの方言は真逆。それがルームシェアへのキッカケにもなったんだけど、合うも合わないも、もう聞き慣れた。

「あんたの喋り方ムカつくねん!!どんなけ見下してんねん!」
「見下してねえだろ?!お前こそ、その話し方なんとかしたらどうなんだよ!」

何度聞いたってこの話し方には慣れなくて、会えばいつも言い合ってばかりだったあのとき。
私は学校の近くで部屋を探していたんだけれど、仕送りとバイト代ではやりくりできなくて、毎日片道2時間かけて通学していた。

『あんた達どっちも家探してんでしょ?2人でルームシェアすればいいじゃん』

突然の友達の言葉に周りの友達もひやかし混じりで勧めてきたことがあった。
圭一も私よりは近いけれど、低血圧で朝が起きられないと言って家を探していた。だけど、私と同じ理由で決めかねていた。
私も圭一も、もちろん断固反対だった。

『いいじゃん。お互い嫌いなんでしょ?家は一緒だけど、別に干渉しあわなくていいし、好きな時間を自由に過ごせるんだよ?“家賃半分で』

この友達のたった一言でルームシェア決行となった。
今思えば、超単純だな、と思う。

最初は嫌々ながら始まった部屋探し。
いざ探し始めると部屋を決めるのに、さほど時間はかからなくて、家具や小物やなんだかんだって揃える時はスムーズに買えた。
2人して“趣味は似てんのね”と苦笑いするくらいだった。

最初の頃は細かいことであーだこーだ言い合って、朝から不機嫌なまま学校に行ったこともあった。だけど、慣れてくると元々興味がなかったのもあってか、気にしなくなって、半年後には当番制という共同生活に変わっていた。

そんな生活もはや3年半。大学生活もあとわずか。
3年半も一緒にいて何かあったわけでもなく、何かが芽生えるわけもなく、普通の毎日を送っている。

あえて変わったことを挙げれば、今は一緒に食事したり、夜は晩酌しながらテレビを見たり2人で時間を過ごすことが多くなった。
各自置いていたTVも電気代節約だといって1台しか動かしていないし、同じ理由で自室ではこもらないように心掛けると自然に一緒にいる時間が長くなっていた。

「お前のマズい料理もあと半年で食い納めか」
「だからマズけりゃ食べなくていいって」
「そんなこと言ってないだろ」
「今はそう聞こえるよ」

話すときは必ず箸を置く圭一のクセ。
長く一緒にいると何気ないことだってわかるようになる。

キョドると“座ったまま硬直する”
照れると“一瞬目を見開いて、俯いたままでいっぱいまばたきをする”
怒ると“無口になるけど、なんとか冷静になろうと散歩しに行く”

私が移ったのは圭一が食後に必ずコーヒーを飲むから私もそのクセがついてしまって、今では豆を切らすと私が怒ってしまうようになってしまった。
全部、圭一のクセ。

圭一も同じように私のクセを見分けているんだと思う。そんなことに気付いていくことが少し特別な感じがした。
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