以心伝心【完】
「貰ってないよ」
「・・嘘」
「なんで?」
「だって、前の香水そんなタイプじゃなかったやん」
確かに前はムスク系で甘かった。でもこれはマリン系。トップがフルーツだから若干の甘さは残るけど、爽やかで確かに今までのとは違う。
前のは好きで付けてたわけじゃないし、動機は不純でも今はこの香水が自分に合ってるって思う。しかし、前の香水まで知ってるとは思わなかった。
その洞察力や観察力を俺の心にも向けて欲しいくらい。
ここまで言われてしまったら正直に言うしかない。って言いたいけど、ただ言うだけじゃつまんない。変なとこでサド心に火がつく俺。サド心っていうか、俺の一世一代の告白をスルーした罰だ。
「なんでこの香水なの?」
「別に」
「別にじゃわかんない」
「似合うと思って」
俺が欲しいのはそんな答えじゃないんだけど。残念だけどペナルティー追加決定。
「こないだ言ってたの、意識した?」
ぴくって反応して固まった。
案外、わかりやすい。しかし、まだ言葉が足りないようで、なかなか喋ろうとしない。
テンション上がって俺の頭ん中カーニバル状態みたいだ。次から次へ思考が飛び交う。しかしそんなこと考えてる場合じゃない。真の気持ちを聞き出さないと。
「抱きしめられた、」
「うるさい!!」
振り向いて俺の口を両手で塞ぐ真は俯いたまま。どうやら図星だそうで。
ここまで来たら最後まで引き出さないと満足しない。このまま押し倒して無理矢理でも言わせてやりたい衝動に駆られるけど、それはさすがに嫌われそうだから今までで一番気を長くする覚悟をした。
本当は気なんかそんなに長くない。こんなじれったい状況も本当はイライラしてる。それでも我慢するのは真の為で、他の奴なら、ましてや男相手なら話にならーん!って言って放り投げてるとこだ。
手を離して溜息をひとつ。そのまま手を俺の肩に乗せて、腰を少し引き寄せて向かい合う。
膝で立つ真を見上げるカタチになる俺は正面から真の顔を眺める。抵抗しないところ見れば、別にこの体勢でもいいらしい。
何がしたくて何を思ってるのかわかんない。届きそうで届かない、見えそうで見えない真の心にじらされて焦る。
こんな体勢も俺にしたら、じらされて、焦らされて、気を長くするって決めた意志も早くも崩壊しそうになる。
「そんなんじゃわからない。言葉にしてくれないとわからない」
催促するつもりなんかないのに、真に勇気が出るまで待とうって思ってるのに、見えそうで見えない心は不安しか生み出さなくて、抵抗しなくても頭の中では他のことを考えてるんだろうか、とか、他の男のことを考えているんだろうか、って思えば思うほど結論が欲しくなって急かしてしまう。
「そんなん、情かもしれんやん。卒業近いからって寂しく感じてるかもしれんやん」
「じゃあ、この香水はなに?」
「それは・・」
「俺はこんなに好きなのに?じゃあ、この香水の意味は?夕飯は?怒った理由は?真の気持ちは?全部3年間の情ですっていう?」
こんなことが言いたいわけじゃないのに真の言葉につい言ってしまった。もしそうだとしたら香水まで買ってつけたりしないし、怒ったからって気にしたりしない。
一人にさせたくないからって帰ってきたりしない。
最初は3年間ルームシェアしてきたから卒業して一人になることを想像して寂しく感じたり、愛おしく感じるだけだって自分でもそう思ってたけど、今は違う。
本気で真のことが好きなんだ。
「どうしたら信じる?」
黙ったまま俯いて反応を見せない真。もしかしたら真の本音かもしれない。恋愛感情がただの同情なのかもしれないって思ってるのかもしれない。
ぶっちゃけた話、俺はそれでもいい。同情でもゆっくり好きになってくれれば、それはそれで寂しい部分もあるけど、一緒にいられるなら嬉しい。
真の頬にかかっている髪を耳にかけて表情が見えるようにする。真下を向いてるからそう簡単に表情は見えないけど、その行動にも反応しない。
無反応のままだと本気でキスするぞ?俺はそれでもいい、てか、むしろイイ!!・・・じゃなくて。
本当、無視し続けるならマジでキスするぞ、バカ真。