以心伝心【完】

ぎゅっと抱きしめられて、俺と真の距離が無くなる。
涙で張り付いた髪を流す度に閉じられる瞳に飾られた長いまつげが色づく。その姿を持つ見た目とは正反対の真に期待するのは止めた。真に言葉を求めても出てきやしない。

結局いつだって尋ねるのも、求めるのも、確かめるのも俺からで真から求めてきたことは一度もない。
今もそう。俺が100%伝えても20%くらいしか返ってこない。
それが真らしいと言えばそうなんだろうけど、もう少し素直に気持ちを伝えてくれてもいいんじゃないかって思う。

「この香水ってあたしのため?」
「・・・」
「また無視か」
「・・・」
「もういい」
「何が言いたいんだよ」

香水が好きだって言って抱きしめられて、自分のためかって聞くし。どんなけ鈍いんだよって言いたい。
そんなの真のために決まってるし、真の好きなモノじゃないと付けない。そんな当たり前のこと聞いてくるなんて、俺、これから苦労しそう。

「これってあたしの傍でいてくれるってゆう意味?」

さっきからそう言ってんじゃん。コイツ今まで何聞いてたんだろう。改めて聞かれると軽くへこむ。まぁ、真相手だし途中は噛み合ってなかったし仕方ないけど。

「こうやって抱きしめてくれんの?」
「・・・」
「ずっと一緒にいてくれんの?」
「一緒にいるなら真がいいんだよ」
「あたしで、いいの?あたしなんかで」

なんで泣くんだよ。さっきから何度も言ってるだろ?
真がいいんだよ。俺が真の傍にいたいんだよ。

何回言えばわかるんだろう。背中に回された腕に力が入る。また泣き始めた真を同じように抱きしめると頬をすり寄せる。

俺に甘えてる。もう、それだけでいい。それが真の精一杯だって見切ることにする。こんなんじゃいつまでたっても前に進まない。

「もう泣くな」
「うん」
「もう、いい?」
「なにが?」
「キス、してもいい?」

返事も聞かずに唇を合わせた。軽く触れるだけのキス。鼻先がくっつきそうなくらい近くにいる真は両手で口元を押さえて、顔が真っ赤。
視線は恥ずかしいのか落としている。

あぁ、もう!可愛くてしかたない。もっと見たい。

「手、離して」

真の手を離して角度を変えて、もう一度キスをする。
ぎゅっとつぶった目に力の入った手。逃げる腰を引き寄せると一度、唇を離して深く口づける。
真の全てを味わうようにゆっくりと優しく包み込むように何度も口づけをかわしてく。

「けいっ、ちょ、待って!!」
「待たない」
「~~~もう!!」

トロンとしながら力の入らない手で俺の胸を精一杯押す。そんな照れた真も可愛いけど、ここまで来てようやく抵抗されても止められるわけがない。
無視して抱きしめると素直に落ち着く真。もうなにしても可愛い。

「・・なにすんだよ」
「うるさい!!」

もう一度キスしようと思ったら、全力で顔を背けられた。
ちょっと、傷ついた。可愛いけど。可愛いけど傷ついたから罰を出してやる。

真だから絶対『無理!!』って言って俺にキスされるハメになる。可愛い真を見れるし、キス出来るし、一石二鳥の案。

「俺、真に好きだって言ったけど、真から聞いてないよな?真が俺のことを好きだって言ってくれたらキスするの、今日はやめる」

一瞬、目を見開いて静止する。そして俯いて考えてる。
たった一言でいいんだけど、その一言が言えないんだよな。わかる気もするけど、そこはやっぱり大切なことだろう。気持ちなんて見えないんだから、言わなきゃわかんない。
特に真とは口にしないと分かり合えそうにないし。

なんか家に帰ってきてから色々あったけど、ていうか、むちゃくちゃだったけど今はどうでもいい。真が色々他に気になることがあるなら聞かれたときに答えればいいと思うし、俺が気になることは真に聞けばいい話。
結果的にはこれからも一緒にいれる。

晴れて“恋人”にもなれたわけだし。まだ気持ちは聞いてないけど、もう確定だし。
これからはルームシェアじゃなくて同棲になっちゃうわけだし、卒業してもずっと一緒にいれるし。
うん、ずっと一緒だし。ヤバい、顔がニヤける。

ふと顔を上げた真に油断した。完全に油断した。

「な、なな、なんっ?!」
「これで、いい?」

その笑顔はいつもの可愛い真だった。
ただ、その向こうには小さなデビルが微笑んでいるように見えた。





END.

H21.07.16 【完】
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