以心伝心【完】
毎日一緒にいる俺達はそのせいもあって滅多にデートをしない。
でも今日は久々に恋人らしいことがしたい!という真の希望に応えて互いの休みを合わせ、アヤに車を借りて少し遠出のドライブ。
久々の外出ってこともあって表に出さずとも内心テンションが上がってる俺は運転中もソワソワしてた。
同じ家に住んで毎日一緒にいるのにいつもとは違う雰囲気が流れてる感じがした。
毎日一緒だから“デートだから出せる雰囲気”ってヤツがこそばゆい。だけど新鮮でドキドキする。
助手席に座る真もいつもの部屋着じゃなく、お洒落に着飾って軽くメイクして髪も軽く巻いたりして、雰囲気が全然違う。それだけで俺のモチベーションは上がる一方で今日はすごくいい日になりそうな気がした。
デートの行き先はアウトレット。お互い仕事の休みは合っても休日出勤があったり予定を立てず家でゴロゴロしたりして、ゆっくり日用品以外の買い物というのをしたことがない。
それに時期が季節の変わり目で真が服を欲しがって、色々候補が出たけどアウトレットに決まった。
服が欲しいのは俺も一緒だったし、この機会に真の好みを知るのもいいチャンスだと思った。
ルールシェアを含めて4年以上も一緒にいるのに今だに真は自分の事をあまり話さない。
出勤時間が違う俺達は一緒に朝食をとっていても低血圧の真に朝から会話は難しくコミュニケーション不足になるってことで寝る前に二人の時間を作って色んなことを話すけど、真はその日に苛立ったことと楽しかったことしか言わず、その他は俺が聞かない限りは話さない。
元々そういうタイプなんだと思うから無理に聞こうと思わないけど無意識に溜め込んでるんだと思ってる。
前に一度、どうして自分のこと話さないか、と聞いたときは「何もないから」と言われて少し喧嘩になった。
真がそう言った意味は俺が思ってるようなことじゃなくて、“特に話すような悩みもないし、仕事も職場の人間関係も今のところは良好だから話すようなネタがない”って意味だったらしい。
それでも俺がこの目で見れない真を知りたいと思うから、どんな話でも聞かせてほしいのにネタがどうとか面白くないとか言い訳して話さない。
その言い方は話したくないんじゃなくて本当にないんだとわかるから無理矢理聞いたりしないけど、少し寂しく感じる時がある。だからってわけじゃないけど今だに掴めないところが多い真のことを少しでも知ろうと思ったわけだ。
家から車で1時間。高速を走ってる間は特に会話もなく静か。普段家で話してる分、デートだからといっていつも以上に話すことはない。なんせ真がそういうタイプじゃない。
普通の女の子ならデートだからって一日を盛り上げるために今から話をしてモチベーションを上げるような気遣いはしそうなものでも真はそういうことをしない。
付き合いも長いし今更そういう真に気を遣われるのも変な感じだし、俺も真も何も話さない空気は嫌いじゃない。
絶対喋らなきゃって思う必要のない相手ほど気の許した相手はいない。それが真だから俺は運転しながらも横目で景色を見る真の横顔を盗み見てた。
「なぁ、アレちゃうん?」
「あー、そうそう」
思ったよりデカイねー、と言った真は笑顔。思わず頭を撫でてしまいそうになるくらいウキウキした雰囲気だ。
遊園地に連れてきてもらった子供みたいなテンションがまた可愛くて、車を停めて入口に向かう間も「なに買おっかなー」と笑う真に顔が緩んだ。
「今日はなに買う予定なの?」
「うーん、特に考えてないけどジーンズとアウター買えたらいいかな、て感じ?」
施設内に入り何店舗かウインドウショッピングして、気になる場所に入っていく。ここの店、入っていい?と袖を引っ張る真に連れられる。
季節の変わり目と商品入れ替えの時期で“店内30~50%オフ”の文字に惹かれて入ったらしい店内は女の人で溢れかえってて、俺と同じように彼女に連れられた男の頭がぽつりぽつり出ていた。
棚にはきちんと畳まれていたはずの服たちが漁った直後だったのかグチャグチャに置かれていた。真はその中の一つを手にとり広げてみたけど違ったらしく戻すときは軽く畳んで戻していた。
そんなことを三着ほど繰り返して店を出た真はトイレに行きたいと言い出して一番近いトイレを教えてあげた。
「なんで知ってんの?前に来たことあんの?」
「なんで?」
「だって、この広い敷地内で初めて来た人が看板も見ずにトイレ案内出来るって偶然でもありえんくない?」
それだけ言ってトイレに入った真の後ろ姿を見つめてた。
高校生の時によくデートに使った場所はここだった。だから店の場所も大体わかるし、トイレの場所も全部じゃないけどどのあたりかは把握してる。それを真に言う必要はないって思ってたし、言うつもりもなかった。なにより興味ないだろうと思ってたからだけど、なんだかドキッとした。