以心伝心【完】

「誰でもよくない?」

案の定、真は手強く教えてくれそうにない。

「だって気になるし」
「気にする必要ないし、今は圭一がおるんやし別にいいやん」

そう言われてしまえば聞きにくい。

確かに今は真の隣には俺がいて一緒に暮らしてる。好きな女と毎日一緒にいれて、これ以上ないくらい幸せ。だけど、やっぱり過去は気になってしまう。
気になったって仕方ないし、過去に戻ることもできないのに、それでも気にする俺は女々しい男なんだろう。黙ったまま真を見つめていたのが見つかり真が苦笑した。

「聞いたっておもしろくないでしょう。でも、そうやな・・知ったらたぶん圭一、ひっくり返るよ」

そう笑った。
いや、笑えない。この時点で笑えない。ひっくり返る、の意味がわかんない。どうして笑顔で言えるのかもわかんない。わかんないから笑えない。

言いたくないのはわかる。だけど、ひっくり返るって言われて気にならない男はいない。
何がなんでも知りたくなって、さらに気になった俺はあまりしつこく聞いて機嫌を損ねられても困るから教えてくれない仕返しとして「ほんとは元カレなんていないんじゃねぇの?」とからかうと、ふんと鼻で笑われ話し掛けても無視され続けた。

あれからまだ少し拗ねたままの真を次は俺が引きずりながら歩く。
実は昨日、二人でプチ衣更えをした時にあまりの服の少なさに、ありえない、ヘビロテ、色落ちしすぎ、少な過ぎてありえない、と散々言われた。
普段仕事でスーツだし家にいるときは常に部屋着のスウェットだから私服の量を知らないのもおかしくない。
大学生活を送ってた時は毎日同じ服は着れないから服だけは多く持って、なけなしのセンスで着こなしていた。社会人になってからは一日スーツで休みも家でダラダラすることが多くなって、たまに真が買って着てくれる服で間に合わせていたし、引っ越す時に着ない服は捨てた。
その結果、この言われよう。だから今日のメインは、実は俺なのだ。

服のジャンルは問わない。真と同じで気に入ったモノで似合うモノを身につけてる。でも今回は真のセンスで服を買うことにしてる。
俺が気になる店に入って真が選ぶ。もちろん俺の好みに合わせて。
俺も真もカジュアルだし、ルームシェアを始めるのに家具を揃えに行った時、これほど趣味が似てる奴がいるんだ、と思えたほどだから、きっと今回も悩まずとも買えるはず。

「これは?」
「こっちは?」
「「・・・」」

そう思ったのは最初だけで、いざ探しはじめると意外と合わなかった。
自分の服に無頓着な俺は質より量を選んでデザイン云々はそれに合うものがあればという考えだったんだけど、真はトータルの俺を見て確実に似合うモノを選んでくれるんだけど値が張る。
いいものは長持ちするって言うけど、俺一人のためにここまで出さなくていいって思うのは俺の貧乏性のせいなのかもしれない。もしくはセンスの無さ。

結局決まらなくて、「どちらも試着されてはいかがですか?」という店員さんに救われて試着に委ねることになる。

「どっちも合うね。あたしが選んだの、横で持ってみてよ」

自分で選んだセーターを着て、真が選んでくれたセーターを横に持って合わせると真は首を傾げて考えた。

あたしが選んだ方がよくない?でもシンプルな方が圭一には合うのかも。と、ぶつぶつ呟いた挙げ句、隣で見ていた店員に「お兄さん的にはどっちがいいと思います?」と聞いていた。もちろん突然の振りに店員は「僕ですか?!」と焦った。

接客もまだまだだな、と苦笑する。どこの誰であろうと真に隙を見せてはならない。いつどこで誰にどう振られるかわからないから常に構えておかなきゃならない。
もちろんそれは真だけの話であって普通の人には必要ない話だけれど。

「最近はこういうデザインが人気ですからオススメとしてはこちらですけど、お兄さんはシンプルな方が似合うと思いました。胸元のワンポイントだけですけど大きめなんで無地って感じはあまり出ないですね。今日穿いてるパンツとも合ってるんでいいと思いますよ」

よく聞くマニュアル通りの台詞に真は「そうやでなー」と頷いて、少し悩んで「コレにしよう!」とシンプルな方を指差した。

お兄さんに預かってもらい他にも探しまわってると結構好みの店でTシャツからパンツ、アウターから小物まで案外リーズナブルなモノが多かった。真もそれに気付いて「いい店やなー」と笑顔だった。

何度か試着を繰り返して計5着を購入することになった。それでも真は足りん!と喚いてたけど、予算の問題もあって今日はこれだけで落ち着いた。
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