以心伝心【完】
「圭一にはいつか話さんとなーって思ってたんよ。だから圭一がこれからの事を考えてくれてるって思ったら話そうと思ってたんよ」
例えそれがお別れに繋がるとしても、と真は続けた。
あれから俺達は店を回る空気なんて無くなって、真の「帰ろっか」の一言で家に帰ってきた。
食べてなかった夕食を食べて早めの風呂を終えて、明日も公休で休みということもあって二人でゆっくり時間を進めた。
ソファーにかけて少し沈黙が続くと真が両足をソファに上げて体育座りで俺の方を向いた。それが合図だった。
あまりにも予想外な言葉に手に持ってたビールを落としそうになる。身体の力が一瞬抜けた気がした。何を言われるのか怖くないと言えば嘘になる。でもこれが真の全てだ、そう構えて深呼吸をした。
「言わんで済むかもしれんしさ、黙ってたんよね」
「ずっと隠すつもりだったってこと?」
「だって、聞いたら圭一の気が変わるかもしれんやん?言い損とか嫌やしさ。もし長く続くならいつかは言おと思ってたで?」
別れる時を考えてた真に軽く凹む。
俺に心変わりなんてありえないのに。真しか見てないのに。
笑いながらする話じゃないことくらい頭の悪い俺だって見抜けてんのに。無理に作った笑顔が胸に刺さる。
だから、抱きしめた。抱きしめたくなった、というのは強がりで、抱きしめて安心したくなった。
真は俺のモノだって、今は俺の腕の中にいて、真の心にも俺がちゃんといるって、安心したかった。
真は少し笑って抱きしめ返してくれた。俺の胸に頬を当てて確認するように甘えるように擦りつくと「圭一には言おうと思えたけど、その何倍も怖い」と呟いた。それがさっきの言葉に繋がると理解できたのは俺も同じ気持ちだからだと思う。
真の全てを受け入れる気持ちはある。だけど、余裕はない。
真の全てを聞いて、真のことを好きじゃなくなることはない。心からそう思うのに、どこか自信を持てず声に出して言えない不安がある。
“聞かないとわからない”と言い訳してしまいそうな弱い自分に嫌気がさす。そんな気持ちを持ちながら“真とずっと歩いていく”と考えてた自分に苛立った。
今、真を支えてあげられるのは自分しかいないのに、怖いと言った真が話そうとしてくれているのに、そんな感情に揺れてどうする。
「俺は今の真が好きなんだ」
無意識に口にした言葉に我に返った。俺が好きなのは過去を踏んだ今の真だ。過去なんてどうでもいい。
真が傍にいてくれるなら、俺は幸せになれるんだから。
「真が傍にいてくれないと俺ダメなんだけど?」
ちょっと甘えたように言うと頭を上げた真は苦笑してて、そんな真の額にキス。くすぐったさに首を竦めた真の顔を両手で上向けて、そのまま唇にキスをした。
大きな瞳は瞬きを繰り返し、頬は赤く染まる。可愛くて頬にも何度もキスをした。
「あたしの一方的な片想いでさー」
俺は真を左肩にもたれさせて、いつものように話させた。安心させるように肩を抱いて子供をあやすようにぽんぽんと叩いたり撫でたりしながら真の話を聞いていた。
「あたしの八つ上で18のときに知り合った人で友達の兄貴の知り合い。一目惚れでさ」
懐かしむように話す真の表情は笑ってて、目を閉じてたから思い出しながら話してるんだと思う。
「友達の兄貴に協力してもらって連絡先聞いて、付き合えるようになったのが19のとき。だから、ちょうど圭一とシェアしたちょっと後くらいかな?」
女子高生ってヤツは年上に憧れる青春時代ってゆうか、八つ上ってだけで憧れの存在って感じでさ。
あたしの場合は一目惚れやったけど、相手26やん?完全に子供扱いでむしゃくしゃしたりドキドキしたりで、片想いなりに青春してたと思う。
高三で受験も控えてて、とりあえず大学受験ってことで連絡絶ちするのも、むっちゃ辛くてさ。
ただでさえ子供扱いされてんのに連絡とらんかったら確実に忘れられる!って焦ってたんやけど、なんでか向こうから応援メールとか息抜きのお茶とか遊びとか誘ってくれて、そん時はかなり調子に乗ってたね。
「俺、そんな楽しい話聞きたくないんだけど?」
黙って聞いてりゃ始終笑顔でなりそめ話しだして、これじゃいい思い出話で全く本題に入れない。
「あたしの青春話やん!嫉妬しちゃう?まぁ、圭一にはそんな清らかな青春はないわなー」
「言ってくれんじゃん」