以心伝心【完】
確かに真の言う通り、俺の高校時代に“清い”の文字は無い。ほぼ、無いけど、真剣に恋した中学時代だってある!とか言ったって真には通用しない。
俺の高校時代を馬鹿にした罰にヘッドロックをかましてやる。「苦しい!痛い!ギブギブ!!」と言うから離してやったけど馬鹿にした表情をやめる気はないらしい。
「てか、俺とシェアし始めた後ってことは2年くらい付き合ってたってこと?」
「んー、多分」
「“多分”ってなに」
「あー、んーとね、えとねー」
ここからかよ、そう思った。
付き合う前から問題があった男だったんだ。はっきり言えない事がある時点でそういう事だって決定づけられる。
この話に関して俺は質問をしないことにした。
今、決めた。俺が先を促すことで話しにくくなるようなことは避けたいし、聞かなくても真が全て話してくれると信じてる。だから次の真の言葉を待った。
「・・・二股、ってヤツ?」
どっちが?なんて聞かなくても男の方だってわかる。
驚き通り越して呆れる。いくら好きな奴だからっていっても二股男と二年間はありえない。
溜息吐きそうになって必死に堪えた。代わりに額に手を当てて目を閉じた。
「あ、呆れてるやろ?いいのよ、笑ってもー」
真はそういうけど、あのとき真が泣いてたのはその二股男にフラれたから・・・ということは男には別に本命がいて真は二番目。それでも付き合えるその精神が俺にはわからない。
笑っていいって言われても笑えない。あの時は気にもとめなくて、お洒落して夜遅くまで出掛けてたあの頃の真がそんな立場にいただなんて全然気が付かなかった。いつも楽しそうに笑ってたから。
「まぁ、その相手が今の奥さん」
「あの女の人?」
「そういうことやね」
サラっと真は言ったけど、真がフラれたのは本命と結婚すると決めたからで、あの時“不安に思ってたことが現実になっただけ”って言ってたのはこの事だった、ということ。じゃあ、その前の台詞のルームシェア云々の理由は全ては嘘だった、ということ。
思い出して考えれば考えるほど疑問だらけで言い出したらキリが無い。それにその本命と顔見知りだっていう事もよくわからない。
三角関係で本命と愛人の関係なのにお互いを知ってるってどういうこと?
「ちょっと待て、意味わかんないんだけど」
頭の悪い俺はとうとうキャパオーバーで数々の疑問だけが渦巻いてる。
「え、どこ?どっから話せばいい?」
俺が躓いてる理由がわかるらしい真は言葉にしていない部分をかみ砕いて説明してくれるらしい。説明を省いているのは同じ時間を共有していて既に話して俺が聞いているから。
それはわかるんだけど、どこから?と聞かれてもどこから聞けば俺の思う疑問が解けるのかわからない。やっぱりなりそめから真面目に全部聞いてりゃよかったか?と少し後悔した。
気になる疑問は多い。とりあえず、浮かんだモノから処理すべきだと思った俺は順に聞いていくことにした。
「まず、あの日。真があの男にフラれた日、俺に理由説明しただろ。あれは嘘?」
「そうです、嘘です。正直に話して馬鹿にされんの目に見えてたし、言うつもりなかったし」
想像以上にサラリと答える真に驚いた。
少なからず、今でも心の傷になってる出来事だと思って気を遣ってるのに、ここまであっけらかんと答えられると拍子抜けしてしまう。
「なんて、言われた?」
「“香と結婚するから、もう付き合えない”」
「・・・」
「“騙してるつもりはなかった。お前のことは本気だった。香が大切だと気付いたんだ”。“お前は他の誰かと幸せになって”」