以心伝心【完】
「お前、ふざけてんだろ」
「ふざけてないもん」
ふざけてないもんって語尾に“もん”を付けてる時点で充分ふざけてるだろうが。それに加えて、
「ふざけてるから、そうやって役者気取って動作付けてんだろうが!」
ほんと馬鹿じゃないの?って言えないぶん強く思う。
こんな話してんのに演技するヤツがどこにいるんだよ。ノリにしても酷すぎる。
「ちょっと~、少しは労ってよ。これでも結構傷ついたんやから」
またしても普段しない頬を膨らましてふざける。俺にとっては後日談にすぎないからふざけてるように見えるけど、真にとったら辛い過去。ふざけてないと言えない辛さがまだ残ってるのかもしれない。
「下手なんだよ」
「なにが」
「演技が」
「しゃあないやろ、素人なんやから!じゃあ、圭一はできるわけ?」
苦し紛れの言葉で話をそらしてみたけど、これも多分、真にはお見通しなんだと思う。声を出して笑いながらも俺を見る視線が優しくて反対に俺が恥ずかしくなる。
そういう何気ない仕草が俺を吸い込んでいくんだ。言葉にしてくれなくても大切にされてることが垣間見えると愛おしく思える。真が過去に誰と想い合っていようが今もこれからも俺だけだ。つまり、そういう事だ。
「まぁ、そんなこんなで・・・終わり?」
「終わってないから。真とあの奥さんが知り合いなのはなんでなの?」
「おうちにお呼ばれされたから」
「はぁ?!」
圭一声デカイ~!なんて言いながら耳塞いでるけど、そんな軽く言える言葉でもないだろう?完全に吹っ切れているとはいえ、真の肝っ玉に驚き呆れる。
「お呼ばれって、なに?」
「だから、あの人が結婚した後に友人集めてお祝いするっていうからソレにお呼ばれした」
長い髪を少し掴んで毛先を指に絡めてくるくると弄ぶ。枝毛や~と眉をしかめる。
「ありえない」
それに真を呼んだ男もそれに参加した真も。
意味がわからない。いや、ほんと意味わかんない。全然わかんない。
「お互いの確認ちゃう?向こうがあたしに対する気持ちの確認っていうか。実際、会いに行ったとき喋ったの奥さんとだけやもん。呼ばれたけど向こうにだって後ろめたい気持ちはあったんやろうし。だって本命と浮気相手やん?そりゃあ、奥さんの前で以前と同じようには話せんでしょうよ」
「そうだけど」
「まぁ、そんな感じっす。だからあたしも奥さんと顔見知り。アーユーアンダースタン?」
下手な英語まで使う真に溜息が止まらない。どうしようもない。
どうやら奥さんは真が浮気相手だってことを知らない。それはそれで幸せな人なんだろうけど、あの男の頭の中は理解できない。男としてどうかしてる。
過去は過去。もう過ぎ去ったことは今更掘り返してもどうにもならないし思い出話にしかならないんだろう。
その中に俺は一切関わっていない。
俺が存在しなかった真の世界。
こんなことを言うのは女々しいのかも知れないけれど、真の過去を聞けば聞くほど自分の存在が真の人生の中でほんの一握りくらいの存在にしかなっていないことが悔しい。
これから誰よりも近く深く関わっていくことはできても過去には戻れない。歳をとれば、この出来事がほんの一握りの思い出になるんだろうけど、今の真にとってはきっと・・・そう思うと、あの男にすごく嫉妬する。
過去の真にもう少し早く出会えていたら、と考えてしまう自分が恥ずかしい。