以心伝心【完】
「あのね、確かに二股されてて二番目やったけど、それでもいいと思えるくらい好きやっただけ!理解ある女でも都合の良い女でもない!今思い返せば、都合の良い女やったのは認めるけど!」
真がそんな女じゃないことくらい言われなくてもわかってる。真の気持ちは理解できないけど想像はできる。真っ直ぐにあの男を好きだっただけ。
「それに、わかってたから立ち直りも早かったし、圭一とも向き合えた!いい経験よ、ケ・イ・ケ・ン!てかさー、圭一深く考えすぎやってば。ただの失恋話よ?失恋くらい人生のうちで何回も経験するやん。それの一つやで?んな顔せんでもさー。圭一もフラれた経験あるやろ?それと一緒やん」
「俺、フラれたことないんだけど?」
「・・・あーもーしんじゃえばいいのにー」
「冗談でもそんなこと言うな!」
これ以上は聞かない方がいいのかもしれない。真のためにも、というのは強がりで、俺自身のために。
思い出して悲しそうな表情をする真は見たくない。聞けば聞くほど、真が話せば話すほど真の中の俺があの男で埋め尽くされそうで嫌だ。
関係も聞けたし今は俺だけってのも聞けた。決定的な感情も見つけたし、これ以上求めるものはない。
「OK!俺の聞きたいことは全部聞けた!ありがとな。じゃあ、飲み直そっか」
話を聞いている間に温くなった缶ビールを空けて冷蔵庫から隣に座る真の分も持って隣に座り直すと真の表情がなぜか曇っていた。話はもう終わったのに、どうしてか明るくならない表情に不安を感じる。
それが俺に対してなのか、過去を掘り返されて感情が蘇ってきたからなのか、それともまだ何か残しているのか。真の表情を見ても俺にはわからなかった。
ただ一点を見つめたまま。
俺が肩を抱いてあやすように撫でると目を閉じて深い溜息を吐いたあと、小さな声で呟くように言った。
「圭一はあたしがどんな経験してようと引いたりせぇへん自信ある?」
アヤと俺が友達じゃなかったら。アヤと後藤が友達じゃなかったら。後藤と真が友達じゃなかったら。
それより、俺と真が同じ大学じゃなかったら。
俺達が出会うことなんてなかったのかもしれない。
そんな恐ろしい事が過ぎって身震いがした。
よくよく考えてみたら実家は正反対の場所にあって、俺達がその間の大学に通っていたから知り合うことができたし付き合うこともできた。こうして大学を卒業してもルームシェアから同棲に変えて一緒に住んでる。そう考えれば偶然なんてないんじゃないかって思えてくる。
女みたいな考えだけど、もし俺達の出会いが“運命”だとするなら、どんな形であれ出会って遅かれ早かれこうして二人並んでいたのかもしれない。
もし、人と人が出会い、友情なり愛情なり結ばれるのが偶然ではなく“必然”や“運命”であるのなら、俺や真が出会った全ての人はある意味“運命の人”であって、真の元カレであるあの男も確かに“運命の人”に違いない。それが真の“運命”に違いない。
その過去の運命を受け止めると俺は決めた。
真にどんな過去があって、どんなに愛した男がいようとも、今傍にいるのはこの俺で、これから先も俺だけだ。
今から真が言おうとしている事は、もちろん想像すら付かない。聞いたところで変わる程度の愛情でもない。ここまで考えてその先は考えるのを止めた。
考えたところで出てくる答えは一つしかないし、聞いたところで無くなる愛情でもない。
ほんの数秒だと思う。真の言葉を聞いてから。
戸惑ったのは事実。不安になったのも事実。怖くなったのも事実。だけど、真の顔を見たら“俺が守ってやらなきゃ”と思った。
俺が自分自身で傍にいるって決めたのに、真の過去も受け止められないような器の男でどうする、そう思えた。
真を抱きしめるとピクリと反応した。
真を抱きしめてるだけで俺は安らぐ。それ以外の時は・・・まぁいい。俺だけが知っていればいいことだ。
「なんで笑うかな」
そう言われて初めて自分が笑ってた事に気付いた。声は出てなかったと思う。でもニヤけてたかもしれない。
「俺、笑ってた?」
「笑ってたよ。わざと?」
「違うよ、わざとなわけない。それに真のことを笑ったわけじゃない」
真のことじゃない。ニヤけたのは自分の下心に。
キモイ男だと思われそうだけど、真が傍にいるんだから、これはしょうがない。
この話は絶対最後に慰めが必要な内容なわけだろ?もちろん慰め役は俺。じゃあ、どうやって慰めてやろうか考えるだろ?俺だって男だし、下心だって出てくるじゃん。