以心伝心【完】

「ほんま圭一は緊張感がないっていうか。まぁそういうとこも好きやけど、もうちょっと空気読めたら最高やのに」

真がこうだから俺は頭が上がらない。浮上させといて落としつつ現状維持、みたいな。単純な俺は真の言葉の一つ一つに一喜一憂する。

“好き”と言われて嬉しい。“空気読めない”と言われたけど、それができたら“最高”て言われたら頑張ろう、て思ってしまう。単純明快ていう言葉は俺のためにあるようなもの。

「俺、真が大好きかもしんない」
「大好き、で止めとけよ」

たまに口調が悪くなるけど、それも好き。

「真も俺のこと大好きでしょ?」
「どうやろね」

そうやって素直じゃないとこも好き。心臓の音が正直すぎて笑っちゃうくらい愛おしい。

「キスしたいんだけど」
「まだ、あかん。あたしの話が終わってから」
「ケチ」

子供みたいな言い方すんな、と笑う真は唇じゃないけど頬にキスをくれた。あと数センチの距離がじれったい。ここに口唇があったら!って子供みたいだけど思ってしまう。

「じゃあ早くキスしたいから話してよ」

やっぱり俺は空気が読めないらしい。深く溜息吐いた真を見て反省した。でも何の話だって受け入れるつもりでいるんだから特に驚く必要もない。

「言わないとキスするから」

真が言いにくそうにしてるのも関係なしで俺は俺を突き進む。
抱きしめてた真の腰と後頭部に手を回して近づくと思いっきり拒否された。けど、真の顔は笑ってた。

「空気読めんのも良いときはあんのにね」

そう言うとスッと表情を戻して真っ直ぐに俺を見つめた。

「あたし、一回あの人の子供おろしてる」
「・・・え?」

真の言葉は凛としていた。俺の一瞬の動揺にも臆することなく、視線も反らさなかった。

「シェアしてから何週間か経って、何日か帰らんかった日あるやろ?あれ、それやねん。子供出来た、てメールしたら即効電話かかってきて“おろしてくれ”て」

即効やで?即効。考えることもなく。
わかってたんやけどさ、子供出来たから本命より優位に立てると一瞬でも思ったあたしの滑稽さといったら!

泣くどころか笑えてきて。笑ってたら赤ちゃんが浮かんできて、やっと泣けた。
笑うあたしにお腹の中のまだ形すら出来てない赤ちゃんの悲しむ声が聞こえてきて、ひたすら泣いた。

次に会ったとき病院の紹介状とお金持ってきてさ、準備周到。言われたとおりに子供おろしたけど嫌いになれん自分の馬鹿さにまた笑えて、ずっと泣き笑い状態。

誰にも言えんし、傷は痛むし、誰の前でも泣けんし。正直あの時ほど圭一がウザく感じた時ないわ。

「真、泣いていいよ」

俺が口を挟むまで、ずっと俺の服を握り締めてた。話の所々で笑顔を見せたつもりでいたんだろうけど、俺には泣きそうな顔にしか見えなかった。
堪えてるんだ、とすぐにわかった。強がるのは真の癖だ。
本当は泣きたくてしょうがないくせに。俺が真を幻滅するなんてないのに。むしろ、逆だって話。

「話、終わりだよね?」
「え、あ・・・うん」
「じゃあ、」

キスしていいよね、と言いかけて真にキツく睨まれた。

泣いていいよ、て言ったのに目に涙溜めるだけで流さないし。俺がこの話を聞き流してるとでも言いたげな強い瞳。

「んなわけねえだろ・・・っ」


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