以心伝心【完】

衝動的、というんだろうか。理性がきかなかった、ともいうんだろうか。
真が嫌がるのも押さえ込んで貪るようにキスをした。真の口内を全て味わい尽くすように逃げる舌も逃さず真が苦しさで必死に抵抗するまで止めなかった。

真が明るく話そうとすればするほど表情が歪んでく様を黙って見てた。無意識だろうが下腹部にあてられる手も震えてた。
真が笑おうとすればするほど涙を浮かべる瞳が切ない。そんな真を守りたいと思う反面、そんなことをさせた男が今でも優しい瞳で真を見ることに苛立った。

そんな資格はないのに、辛い思いをさせてるのに、今でも愛おしむようなあの瞳に苛立った。だけど、俺が今ここで苛立つのは八つ当たりだと思ったからキスを求めたのに真のあの瞳に理性も切れた。

このキスは真を慰める為のものじゃない。この話を聞いた俺自身の為に求めたものだ。
どうしても苛立つこの感情を真に鎮めてほしかった。言いたくない言葉まで言ってしまいそうで、それをごまかす為にもキスしたかった。それなのに真は“信じられない”とでも言いたげな瞳で俺を睨んだ。

言葉で慰められるわけがない。慰め方なんてわからない。
確かに言い方も悪かったと思う。だけど、真に何を言えばいいのかなんてわからない。
男に子は産めない。だから子供をおろした真の気持ちは理解できない。
ただ俺が感じるのはあの男に対しての苛立ちだけだった。

「ごめん」

今は大切な真を乱暴に触ってしまいそうで抱きしめていた真を少し離した。

「・・・圭一?」

真が俺に伸ばした手も避けた。真がその行動で誤解するんじゃないかって思ったけど今はこれしか思い付かない。
触れればこの感情の全てを真にぶつけてしまいそうで、それだけはどうしても避けたかった。

「圭一」

今度こそ本当に泣くんじゃないか、と思った。声が震えてる。俺の行動が真を傷つけてしまったんだろう。それでも俺は真を見てやれない。

「圭一、ごめんなさい」
「・・・」
「圭一、ごめんなさい」
「・・・」
「圭一、ごめ、」
「謝るな」

なに、真に謝らせてるんだ。こんなことをさせたいわけじゃないのに。

「謝るな。俺は真に謝らせたいわけじゃない。真がどんな過去を持ってようと俺には関係ない」
「圭一」
「俺は今の真が大切なんだ」

涙を流す真を再び力一杯抱きしめた。
真があの男の子供を宿して、おろしたとしても今の俺が大好きな真に変わりはないし、それについて何とも思わないわけじゃないけど俺の真に対する愛情に関わることじゃない。

「ただ、あの男の態度が俺は許せない!」

そう言うと真はまた涙を流して俺を抱きしめた。

「ありがとう」

何に対しての感謝なのか俺にはわからないけど、これで真の重荷が少しでも軽くなればいいと思った。
俺には理解できない複雑な思いが真にはあるはず。理解できないから受け止めようと思う。
真の過去も、産まれてこれなかった子供も、全て俺自身で包み込んでやろうと決めた。

「産まれてこれなかった子供の分まで俺が一生かけて愛してやる」

言ったあとでプロポーズみたいだな、と思ったけど、それが一番適した言葉だと思う。
この言葉に嘘なんてない。あの男の存在すら忘れてしまうくらい俺が真を愛してやる。

「圭一に嫌われるかと思った。怖かった」
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