以心伝心【完】

「アヤ、今日何限まで?」
「3限」
「マジ?合コン来ない?」
「行かね」
「マジで?アヤが来ないと女来ないんだって!」

“俺をエサにすんじゃねぇよ”って言いたい。本当は言ってやりたい。

「いや、今日用事あるし。また誘って」

片手を顔の前まであげて、申し訳なさそうな顔。急ぎ足で移動するフリ。
ほんと情けねぇ。

「違うやん。あたしが言ってんのは、そこじゃない」
「じゃあ、なに。何が違うの」

・・・大学構内っつっても人がわんさか通るのに大声で痴話喧嘩。どうせいつものように他人が聞いてりゃしょうもない内容だろう。毎日よく飽きないなって思う。

最初からそんな雰囲気出てたけど、本当にくっつくとは思わなかったし。“嫌い嫌いも好きのうち”ってヤツ?

「あ、アヤちゃん」

俺は本気で落とそうと思ってたけど、先に取られちゃったし。
初めて会ったときとか、本当に毎日ハッピーになるって思ってたもんな。ま、見た目と中身は違うってよく言うけど、ほんと代表例だよ、真ちゃんは。

「よ、また痴話喧嘩?」
「痴話、」
「今日の晩飯、俺が作るんだけど、俺バイトで遅くなるからって言ったら“あたしが作る”って言い出して、作り方教えてたら逆ギレされた」
「逆ギレってなによ!」

そうやってまた二人の世界に入って俺を放置しちゃうでしょ。気付いてくれたの真ちゃんのはずなんだけど。
二人の言い合いを溜息交じりに見つめて思う。

結局、半分本気だった俺は圭ちゃんと付き合うことになった真ちゃんにフラれたことになって、今は完全にフリーな状態。
真ちゃんに出会う前は毎日って言っていいほど合コンに行ってたけど、今はそんな気分になれないし。なにより、そういうことに関してうるさい奴が傍にいるから、めんどくさくて行ってない。

「今日は後藤は一緒じゃないの?」
「あー、今日は休講らしくて友達と買い物らしい」
「ごっちゃん休みなんかー。寂しいなー」

いつの間にか仲直りしたらしく、手を繋いで俺の傍に来たのはいいけど、それも結構古傷えぐられる感じ。
気持ち伝えるどころか、圭ちゃんに近づかせてももらえなかった俺だから真ちゃんは何も知らない。てか、全部冗談だと思われてたみたいだし。
今更、言うこともないけど。

「真ちゃんって歩のことを“歩”って呼ばないよね」
「そうやね」
「最初から?」
「多分」

空いてる手で考えるポーズを取って考えたフリしてるけど、これは絶対考えてないな。
真ちゃんはしっかりしてて姉御肌っぽいイメージなんだけど、案外抜けてて適当。それだから、圭ちゃんと付き合ってやってけんだろうけど。

「呼び方について、ごっちゃんと約束がある」
「なにそれ」

女同士で呼び名のルールって初めて聞いた。てか、そんなこと決めなくても呼びたいように呼ぶのが普通じゃないの?
真ちゃんも歩も変わってるっちゃ変わってるから、まぁわからなくもないけど。

「ごっちゃんに対して、じゃないけどな」

ニッコリ笑う真ちゃんにますますわからなくなって首を傾げるけど、隣の圭ちゃんは気付いたらしく苦笑してる。
変に強調した言い方に疑問が浮かぶけど、ポケットに入ってる携帯に思考を遮られた。
< 40 / 104 >

この作品をシェア

pagetop