以心伝心【完】

「やだ、奥さんからじゃないの?」
「アヤんとこの怖い嫁な」
「今流行の鬼嫁ってヤツ?」
「そりゃヤベーな」

携帯のサブディスプレイを見て顔をしかめた俺に冷やかしのヤジが飛んでくる。
黙って聞いてりゃ嫁、嫁って「嫁じゃねぇし!」って言いたくなったけど、このバカップルに言ったって聞きゃしないのはわかってる。ジッと睨んで、鳴り続けてた携帯を耳に当てる。

《今、大学?》

“もしもし”も言わせないで発せられる言葉。これもいつものことだけど、せっかちな所と人の話を聞かないところは昔から変わらない。

「そうだけど」
《今ね、文也が好きそうな服見つけたんだけど》
「いいよ、別に」
《なんでよ》
「俺に気遣うなってか、彼氏でもないのにそういうことすんな」
《そんなの今更じゃない》
「そうだけど、もういいから」

ちょっと、という声が聞こえたけど切った。

「あ・・・」

顔を上げると手を繋ぎっぱなしのバカップルが見てる。すげー見てる。俺に見せ付けるように指を絡ませて手を繋ぎながらスゲー見てる。

「ごっちゃん?」
「そう」
「“彼氏”って?」

俺に似合いそうな服があったからって買って帰ってくることなんて昔からのこと。
何年か前からこういうのはしなくていいって言ってるけど、癖だなんだって言って服やら小物やら買ってきてくれる。
それにしても、この二人の前で使ってはいけない単語だった。

「なんでもないって」
「どうせちゃんと話も聞かずに切ったんやろ?」

ずばり言い当てられて黙ってしまう。
女友達と夫婦間に秘密事はないって何かの本で読んだことがあったけど、本当にそうなんだろう。
真ちゃんと歩には“親友”というなの友達で、俺との話も全部横流しなんだろう。もちろん、圭ちゃんにも。
隣の圭ちゃんはわかってんのかわかってないのか、真ちゃんの横顔を見て笑ってる。

俺だって圭ちゃんとは真ちゃんと歩のような“親友”っていうクッサイ言葉で括るような関係ではないものの、これからも仲良くしていきたい大事なツレだから俺の話も俺の気持ちも全部知ってる。
それでこの反応ってちょっと薄情な気がするけど、それも圭ちゃんだから仕方ない。

あの圭ちゃんが今では真ちゃん一筋。
ま、それだけ真ちゃんには圭ちゃんをトリコにする魅力があったってことだけど。

「確かに歩だけど、これもいつもの事だから。アイツだって俺の電話ブチるし」

女の子ってアイツ女じゃないし。
圭ちゃんは俺を見た後、面白そうに笑って「そうみたいだな」と真ちゃんに向かって言った。

「あたしはさ、ごっちゃんもアヤちゃんも好きやから言うけど。アヤちゃんにとってごっちゃんはたった一人の“幼なじみ”やん。“その他大勢の女の子”とは訳が違うやん。あたしと圭一みたいに赤の他人同士じゃないやん。アヤちゃんが“その他大勢の女の子”にどんな接し方してるかわからんけど、アヤちゃんが一番素でおれるのってごっちゃんだけやろ?そのごっちゃんを傷つけるようなことって言うべきじゃないし、するべきじゃないと思う」

・・・ちょっと待て。
いや、確かに圭ちゃんのことを赤の他人って言ってたけど。それに怒る圭ちゃんの気持ちもわからなくはないけど。
そうだよね、“今は彼氏だけど”とかフォロー入れるべきだったよね。
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