以心伝心【完】
『真の観察力、マジで怖い』
そういえば歩も言ってた。
『真にはすぐバレちゃうんだよねー』
携帯握り締めたまま泣き腫らした目で笑う歩が俺以外の人間に慰められて初めて笑ったときを思い出した。
「とにかく、ごっちゃんに会ったら謝ってよ?」
子供に言い聞かせるように言われ、言われるがまま「はい」と頷くと嬉しそうに笑う。その横で圭ちゃんも笑う。
このバカップルめ。でも、憧れるカップルには違いない。
友達期間が長い分、関係が恋人に変わっても、今更自分を包み隠すことないから何でも本音で言い合える。
ちっちゃい事で喧嘩してても信頼してるのが見ててわかるから仲裁に入ろうとも思わないし、さっきみたいに放置してりゃ勝手に仲直りしてる。そういうの、すごい良いなって思わされる。
「ちゃんと帰ったら謝るからさ、俺邪魔みたいだし、しかも講義始まるし行くわ。どうせ今日は終わりなんでしょ?」
二人は顔を見合わせて、「じゃあ、アヤちゃんの分もお土産いるね」と笑ってた。とりあえず、どっかに遊びに行くんだろう。
「じゃあね」
手を振って別れて、数歩歩いてから振り返る。すると、まだ見てたのか真ちゃんが手を振ってる。それを見て圭ちゃんが微笑んでる。
“アイツら絶対結婚する”
俺の勘は当たるんだ。
きっと卒業しても一緒に住んでて、気が付いたら二人の子供もいて、それで歩が羨ましがって、俺が宥めて・・そんな日が来るんだろう。
圭ちゃんと真ちゃんが一緒に居ることを俺の冴えた勘が言ってても、俺らの関係がどうなるかまではわからない。
今は同じ大学に通って学科は違えども、たまに時間が合えば一緒に帰ったり、飯行ったり、買い物だってするけど、俺らの関係が卒業後も変わらないって保障はない。
“幼なじみ”という関係は変わらないにしろ、男と女だからアイツにも今まで通り彼氏が出来るんだろうし、年齢的にも同棲が始まったり、いずれは結婚の話が持ち上がったりするのかもしれない。それは俺に対してもそうなんだけど、今のままじゃいられないってことが重い。
今の性別の関係ない“幼なじみ”という関係が重い。
「一瞬だって“女”を意識したことないんだぞ」
小さい頃から隣にいた。中学に入って、アイツに好きな男が出来て、高校で彼氏が出来て、それでも一瞬でも女を感じたことないアイツに、歩に、それ以上の感情なんて絶対感じないって思ってる。
どっちにしろ、このままの関係が続くことはないだろう。どんな形があったって絶対傍にいられるわけじゃない。
その時によって関わる人間だって変わってくるだろうし、思う強さも、その対象になる人間も日々変わってく。
「アイツが俺の傍を離れることなんてあんのかよ」
本当は薄々感じてた。わかりやすい歩だからわかりやすかった。
それでも必死に今まで通りに接してて、たまに見せる伏せた目とか綺麗だった。その表情をさせる男が俺だって思ったら自信が持てた。
そんな表情を見ても俺の中のアイツは何も変わらなくて、昔と変わらなくて、どうこうするつもりもないし、向こうが今まで通りならそのままでって思ってる。
「めんどくせぇ」
足が勝手に動いてた。あと3分で講義が始まるってゆうのに俺は走ってた。どこにいんのかわかんないのに足が勝手に動いてた。
どうか、あのバカップルには会いませんように、それだけを強く願いながら普段行きそうな場所を片っ端から探し出した。