以心伝心【完】
「いた」
一発目で探し出す俺はすごいのかもしれない。ここまで歩の行動パターンを読めてる俺ってすごい思う。
向かった先はいつも出かけたときに寄るカフェ。寒いのに外で飲んでるあたり、バカに違いない。
「男?」
こっちを向いて座ってる歩の前に、俺に背を向けるように座ってる男がいる。だからメンズの服を見てたのか、と納得できた。
俺いらねぇじゃん、と思って、もう一度見ると歩の表情がおかしい。明らかに嫌がってる感じで連れてる奴とは違うような感じがする。
ずっと話しかけられてるみたいだけど、歩は無視というかカップを口に付けたままで目を合わそうとも話そうともしない。
まさかのナンパ野郎に声を掛けられてる状態。
「なにやってんだよ」
呆れた溜息が出る。何を血迷ったのか、最近露出の高い服を着ていて、そのせいか男に声を掛けられることが増えた。
俺が一緒にいてるときも一瞬でも傍を離れるともう囲まれてる。
確かにスタイルは悪くないけど、そこまでっていうほどでもないような気がする。
以前、『後藤だって意外とスタイルいいじゃん』と聞いたのを覚えてる。俺が真ちゃんを褒めたときに言ってた。
圭ちゃんが言うから違いないんだろうけど、「俺は意識したことないからわかんねぇ」って言うと『もったいねぇの』と笑われた。
「はぁー」
ガシガシと頭を掻いて、目の前にいる歩を助け出そうとしたら、ふと視線を上げた歩と目が合った。一瞬、目を見開いて、また伏せる。
すでに飲み終えてたらしいカップをテーブルの上に置く。立ち上がろうとした瞬間、男に手首を取られて捕まった。
カフェの店員は誰も助けにこんのかい、と呆れる。見た感じややこしそうな奴だし、止めたら逆にやかられそうなの目に見えるもんね。
外に客が居ないってのを好都合に誰もこないんだな。こんなことになってりゃ世も末だ。
俺は歩くスピードを速めて近づき、男の手を取って振り払う。
「なんだ、お前」
「これ、俺の女なんでナンパすんのやめてもらえます?」
男は俺の顔を見て、ありきたりな台詞を吐いて思ったよりあっさりと消えていった。
「根性ねぇな」
庇うように立ってた俺は振り返って笑いかけると、そこには歩の姿はなくて5メートルほど離れた先にいた。
「助けてもらった礼くらい言えよ」
また一つ溜息吐いて、後を追う。どうせ電話のことで拗ねてんだろうけど、謝れば済む話だろ。何をそんなに怒ってんのかわかんねぇ。
女ってわかんねぇな、本当。
「歩」
もう背後まで来てるんだけど、話しかけても無視。確実に聞こえてるはずの距離で無視って相当怒ってんだろうな、と悟る。
「歩」
・・・無視。
「お前、無視するのも、」
「ついてこないでよ」
助けてやった恩も知らないでついてくんなとはどういうことだ。俺は講義を削って会いにきて、ナンパ野郎を追っ払ったっていうのに、その態度はないだろう。
「あのな」
「講義あるって言ってたじゃん。なんで居るの」
お前が電話してきたんだろ、と言いかけてやめた。
歩のために講義抜けたって言ってるみたいで言えなかった。だから、「休講になったんだよ」と嘘を吐いた。
まだ振り向かない歩に少しイラついて、隣に並ぶ。横目で見た歩の目は少し赤い。泣いたんだろう。
何が理由で泣いたかわかんないけど、とりあえず泣いてたことはわかった。
あとは怒ってる理由。これを聞きださなきゃ俺も納得して大学に戻れない。