以心伝心【完】

俺の言葉が図星だったのか、急に態度を変えて「帰るわ」と声色だけを戻して掛かっているスーツとカバンを持った。

「真」

リビングを出る前に真の名前を呼んで振り返る。真はまだ俺が抱きしめたまま。声に反応して離れようとしたけど、頭を抑えて阻止すると大人しく従った。

「真、また会うたら声掛けてや。あ、あと、その男に飽きたらいつでも待ってるわ」

ほな、と片手をあげて出て行く男を俺は黙って見てた。
最後に俺に向けて舌を出したのもしっかり見てた。小学生か、と思った。

アイツが本気で真を気に入っていたのかはどうかわからない。わからないけど、ほんの興味本位で家に入って来たに違いない。
もし、真に彼氏がいなかったら間違いなく落としにかかってたと思う。だって、相手はこの真だ。元カノだのなんだの置いたって狙ったに違いない。
こんなに綺麗で可愛い真に惚れない男なんていない。

「ちょっと。ちょっと、圭一!」
「お?」
「お?じゃないし。離して」

腕の中で大人しかった真がアイツが帰ったことで元に戻った。腕の中で暴れる真を抑えながら、場所を移動する。

「ちょっと」
「ん~?」
「どこ行くん?」
「ん?寝室~」
「は?!ちょっ、うわ!」

暴れる真を抱きかかえる。
色気のない声を出して、全然萌えやしない。女ならもう少しキャッとか可愛い声だしゃいいのに、それが真には出来ない。
それがまたベッドの中の真とのギャップで結局萌えるんだけど。

「何考えてんのよ」
「は?」
「その顔、キモイ」

キモイっつった。アイツを帰してやった俺に向かってキモイっつった。
バカな真め。そんなこと言ってるから、いつまでも俺に主導権握られっぱなしなんだっつの。

「彼氏様にキモイっつったな?」
「様付けとか、キッツイ」
「お前なぁ」
「でも、ありがとう」

首に回した手でギュッと抱きついて、恥ずかしそうに小声で呟いた。
バクバクいってる心臓が普段、素直にならない真をどんなに緊張させているか語ってる。
それだけで俺は嬉しい。

真とアイツの過去に割り込めなくても、真の元カレがまだいても、今この瞬間を不安にさせるものなんて全部消してしまえる。今の真には俺だけだという証明になる。

「真ちゃんが悪い子なので、今日は寝れません♪」
「え?!」
「俺を心配させたのと誘惑した罰です」
「ゆ、誘惑なんかしてな、…痛っ!」

ベッドにポイッと投げる。スプリングで少しだけ体勢を崩して、そのまま倒れこむ真を上から覆いかぶさる。

「ちょっと!」
「なぁに?」
「どいてよ!」
「イヤ」

少し赤くなった真にチュッと触れるだけのキス。浮かしてる頭をしんどくないように支えて、さらにキス。そして、さらにキス。
全部触れるだけのキス。

「も~!やめてってば!!」

最終的には額と顎の二点を押さえられてしまった。

「おい」
「とりあえず、やめて」
「わかったから手離せ」

本当に素直でバカな真。そんな所が愛おしくて仕方ない俺。
手を離した瞬間、ニヤリと笑う俺の顔を見て抵抗したけど、もう遅い。俺は真の両手を掴んでベッドに押し付けた。

「今回は真が悪いよ」

俺の言葉にアイツを連れてきてしまったことを思ったのか、しょぼんとする真。でも俺が言ってるのは違う。
真が“誘惑”するから悪いって意味だ。
こんな体勢でいても、そこまで考えがいかない真がまた可愛い。

「ほら、謝罪と感謝の意を込めて俺を慰めてよ」
「は?」
「ほら」

真の片手を離して、ゆっくりと俺の頬に近づける。そして、触れたのと同時に手を離す。俺の右頬には真の手。

「圭一のアホ」
「アホで結構。でも俺は真が大好き」

真っ赤になって視線を逸らす真。頬に触れてる手もピクリと反応する。でも、離れない手。

「真は?それでも俺ってアホなの?」

そう言うと真は笑って、触れている手を輪郭をなぞるように動かす。
輪郭、耳の後ろから首筋、そして、ネクタイを外して首筋から鎖骨あたりまで撫でる。
その視線が色っぽい。
俺の感覚神経が真の触れた箇所に集中する。

「大好き、か」
「ん?」
「ううん。なんもない」
「どうしたの」

どこか寂しそうな目をする真に問いかけてみる。
前髪に触れて、かきあげてキスを落とす。すると、真は微笑んだ。

「あのね」
「うん」
「今まであたしに“好き”とか“大好き”って言うてくれた人の中で、」

そこまで言って、言うのを止めた真。頬を撫でると、こそばゆそうに手から逃れるように首を傾けた。

「なに?」
「一番信じられる人やな、って思った」

こんな時に真っ直ぐ俺のことを見やがって。恥ずかしさの欠片もないって顔して笑いやがって。俺の心臓の状態も知らずに。

俺と違って、“ここぞ”という時に素直になられると俺の心臓がもたない。それにこの状況。
絶対わかってやってない。素でやっちゃうから俺の事情が辛くなるんだって事をそろそろわかってもらいた。

「明日、休みでよかったね」
「へ?」
「俺、今日は我慢できないわ」





~圭一side 完~
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